第31話 新人魔女と白紙の魔術書(7)

 球体に向かってそう心の中で呼びかける。すると、その言葉に応えるかのように、リッカの手の中の球がふわりと光を放った。その光は徐々に眩しさを増していき、リッカは思わず目を細めた。


 パキッと何かが割れるような小さな音が手の中から聞こえたかと思うと、光が徐々に収まっていった。光が完全に消え去った後、球体は跡形もなく姿を消してしまっていた。


 代わりに、白銀の毛並みを持つ一匹の小さな子狼の姿があった。その獣は、今まで見たどの生き物よりも美しい姿をしていた。白銀色に輝くその身体はキラキラと輝き、その瞳は深い青色をしている。青く澄んだ双眼は、まっすぐにリッカを見つめている。


 その子狼に見惚れてしまったリッカは、しばらくの間呆然としていたが、我に返って慌てて口を開いた。


「はじめまして。私はリッカ。あなたの名前は?」


 リッカはそう言って優しく微笑みかけた。すると、子狼は小さく吠えてからリッカの腕の中で身体を捩る。リッカは驚きながらも、その身体を抱きとめた。


 リッカに抱き抱えられた子狼は、リッカの顔を見てもう一度鳴いた。


「……クゥン」


 それはとても可愛らしい鳴き声だった。リッカは胸の奥がきゅんとする感覚を覚えた。


 しばらくそのまま抱きしめた後、リッカはそろりと手を離してその場に座り込んだ。どうやら使い魔召喚に成功したようでホッとしたのだ。


 子狼の方も、リッカの隣にちょこんとお行儀よく座っている。リッカはその様子を見てくすりと笑うと、鞄の中からおやつを取り出した。


「よかったら食べる?」

「ワウ!」


 子狼が元気に返事をする。それから、嬉しそうな顔をして差し出されたクッキーを食べ始めた。そんな様子に、リッカは再びクスッと笑みを浮かべた。


「美味しい?」


 そう言いながら、リッカは子狼の頭を撫でてやった。気持ちよさそうに、子狼はリッカの手にじゃれついてきた。


「もう名前決めたんか?」


 突然後ろから声をかけられ、リッカはビクリと肩を震わせた。振り返ると、グリムが興味深げにこちらの様子を窺っていた。


「あ、グリムさん。どうですか? 使い魔召喚に成功しました!」


 リッカはそう言うと、満面の笑みでグリムに笑いかける。そんなリッカに、グリムもつられて笑顔を見せる。その後、再度視線を子狼へと移した。子狼はクッキーを食べるのに夢中になっているようだった。


「えらい可愛らしいやんけ。それにしても、まさかほんまに一度で成功するとは思わんかったわ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る