第10話 新人魔女と不器用な師匠(2)

「あの……おはようございます」


 リッカの声を聞いた人物は作業の手を止めて振り返った。まず目に入ったのは、眩しい金色の髪だった。サイドのみ肩先につくくらいの長さがあり、バックは短めに切られたサラサラのショートヘアが、窓から差し込む朝日を受けてきらきらと輝いている。その色と同じ瞳に見つめられて、リッカは思わず息を呑んだ。


(なんて綺麗な人……)


 一瞬にして心を奪われた。だが、すぐに我に帰る。リッカは再び口を開いた。


「初めまして、わたし、本日からこちらでお世話になります、新人魔女のリッカです。あの、リゼさんの助手の方ですか?」

「……」


 返事がない。まさか聞こえなかったのかと思い、もう一度話しかけようと口を開きかけた時、ようやく目の前の人物が言葉を発した。


「……違う」


 抑揚のない口調だった。金色の髪の人はそれだけ言うと再び黙ってしまった。


(え? 何が違うの?)


 全く意味がわからず、戸惑うばかりのリッカだったが、たった今聞いた声にどこか聞き覚えがあった。確か、昨日も聞いたような……。


 そう思い出したところで、リッカはハッとした。もう一度目の前の人物を凝視する。しかし、やはりそこにあったのは眩しい金色の髪と整った容貌を持つ人物の顔であった。


 記憶との違いに首を傾げながら、リッカは思わず呟くようにおずおずと訊ねた。


「あ、あの……もしかして……リゼさん、ですか?」

「……そうだ」

「っ!?」


 リッカは驚いて絶句した。昨日会った時、リゼは水色の長髪だった。それが今は金色のショートヘアになっている。突然の変わりように困惑するリッカをよそに、リゼは淡々と話し出した。


「何を突っ立っている? 来たならばさっさと仕事を始めろ」

「え? あっ、は、はい……えっと仕事……仕事……?」


 いきなりの指示に、戸惑いながらもなんとか応える。


「あ、あの……わたしは何をすれば良いんでしょうか?」


 すると、リゼは不思議そうな顔をして答えた。


「何を言っている。昨日指示を出したではないか」

「昨日……ああ、ヒヤシンですね。昨日のうちに干しておいたので、もう乾燥していると思いますが」


 リッカの言葉に、リゼは小さくため息をついた。


「そんなことは分かっている。私はその続きをやれと言っている」

「続きって……もしかして、薬の生成ですか? でもあれは、わたしのような工房見習いになったばかりの者がやる仕事ではないと思うのですが」


 リッカの疑問に、リゼは呆れた様子で言う。

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