第9話 新人魔女と不器用な師匠(1)
新人魔女リッカはまだ外が暗い内に目を覚ました。
今日から本格的に勤めることになる工房は自宅から少し離れた東の森にあり、早く行かなければ始業時間に遅れてしまう。そうは言っても、始業時間は言い渡されていないので、いつが始業時間なのかは正直なところ分からない。
だがしかし、しっかりと日が昇ってからの出勤など、見習い学校を卒業したばかりの新人に許されるはずがない。
そう考えたリッカは急いで身支度を済ませると、まだ眠っている両親に挨拶をして家を出た。そして歩き慣れない道を辿りながら工房へと向かう。
この国には魔法使いや魔女と呼ばれる存在がいる。彼らは皆、魔法と呼ばれる不思議な力を操ることができるのだ。先日魔女の仲間入りをしたリッカももちろん魔法を使うことができる。
その魔法の力を使って人々の暮らしを助けることを生業としているのが魔術工房だ。街にはいくつもの魔術工房があるが、リッカはあえて通うには不便な森の中にある魔術工房を職場に選んだ。
その理由は、のんびりと暮らしたいから。そして、雑務に追われることなく好きなだけ実習に明け暮れたいから。そんな不純な、いや正当な理由を掲げ、リッカは木々の間を進んでいく。
「……着いた」
しばらく歩くと、森の中にぽっかりと空いた広場に出た。そこには煉瓦造りの小さな家が建っていた。ここがリッカの新しい職場となる。
リッカはその建物を改めて見上げた。昨日は気がつかなかったが、入口の上に掲げられた看板には『マグノリア魔術工房』と書かれている。マグノリアというのは、ここの工房主リゼの姓だろうか。
リッカはふとを思った。よくよく考えてみれば、自分は工房主であるリゼについて、何も知らない。
そのことに気がついたリッカは、急に不安になった。勢いで就職先を決めてしまったが、自分は本当にここで働いていけるのだろうか。もし、失敗したらどうしよう。今さら後悔しても遅いことは分かっていたが、それでも考えずにはいられなかった。
(でも、ここほどわたしの希望に合う工房はないのだから)
自分に言い聞かせるようにしてリッカは深呼吸した。もう後戻りはできない。あとはこの扉を開けるだけだ。
意を決し木製の扉を開けると、中からは薬品独特の匂いが漂ってきた。どうやら、既にリゼは仕事を始めているらしい。
(あぁ、来るのが遅かったかしら)
工房に足を踏み入れたリッカは、部屋の中に人の気配を感じて緊張しながら声をかけた。
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