第6話 新人魔女は、のんびり森で暮らしたい!(6)

「わぁ! すごくきれい!」

「おおっ。立派だな」


 ジャックスもリッカの隣に立ってヒヤシンを見上げた。大男のジャックスでさえ見上げなければいけないほど、その花は大きかった。リッカはジャックス以上に顔を上に向け、真剣な眼差しでヒヤシンの花を観察していた。


 しばらく眺めた後、リッカはジャックスの方を見て言った。


「ジャックスさん、少し離れていてください」

「お? わかった」


 ジャックスは言われた通り距離を取る。ジャックスが離れたのを確認したリッカは、小さく息を吐いた。


 そして―――


 小さな手のひらを標的である巨大な花の根元へと向けると、呟くような声で魔法を唱えた。


「〈雷電ライディン〉」


 すると、掌に青白い光が灯った。その光は徐々に強くなっていく。そして、次の瞬間、轟音と共に激しい雷撃が放たれた。


 強烈な閃光に目が眩む。


 しばらくしてから、ジャックスはゆっくりと瞼を開いた。するとそこには、先程までの光景はなかった。地面は大きくえぐれ、土埃が立ち上っている。そして、その中心には、黒焦げになったヒヤシンの姿があった。


「……」


 ジャックスはその光景に絶句した。


 リッカは土埃に汚れたスカートの裾を、ぱんぱんっと叩いて払う。それからジャックスの方を見ると、申し訳なさそうに言った。


「あ、あの……。もしかして、ちょっとやり過ぎちゃいました?」

「いや……」


 ジャックスは、目の前で起きたことが信じられなかった。ジャックスは自分の頬をつねってみる。痛かった。夢ではないようだ。


(これで新人魔女だと……。とんでもないな)


 ジャックスは呆然としたままリッカを見た後、苦笑した。


「しっかし、驚いたな。まさかあんな強力な攻撃ができるなんて」

「あはは。ありがとうございます」

「さっきの魔法、詠唱破棄だったよな?」


 ジャックスは感心したように言った。詠唱破棄とは、術名を短く唱えることで、魔法の発動時間を短縮する技術だ。熟練の魔法使いでも難しいと言われている。ジャックスが知る限りでは、詠唱破棄が出来る魔法使いはリゼだけだった。しかし、リッカはそれを難なくやって見せた。


 リッカは照れ臭そうに頭を掻いて答える。


「はい。一応」

「一応って……嬢ちゃん、思ってたよりもすごい奴だな」

「いえ。まだまだです」


 リッカは謙遜して笑う。


(本当にこの子は……規格外だな。才能もだが……何より、努力家でもあるんだろうな。だからこその自信か……)


 ジャックスはリッカの評価を改めることにした。

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