フィクションホラー
ボウガ
第1話
「私は引きこもりで、親戚の家に預けられていた?」
「そんなはずないと思うでしょうけど、あなたは、そうだったのよ、そして私が親戚、叔母のユリコよ」
「そして私の名前は—ケイ?」
「そうよ、夫は数年前に他界して、あなたは、記憶喪失になってショックでしょうけど、あなたが記憶喪失になった原因もおいおい話すからね」
10年だ。10年も意識を失い記憶喪失だったという。少しずつ思い出してくれといって、部屋での療養を許してもらえた。たしかに、今の様子でいきなり働きに出るのも無理だろう。
ケイはまず、自分の部屋を片付けたり物の配置をじっくりみたりした。パソコンを開くと様々なパスワードを覚えていた。得にもっとも驚いたのは、ネットゲームの入り方とIDパスワードを覚えていた事だった。
そこで、昔親友だったという人々とあった。ログインするなり同じギルドの人々が“心配していたよ”“現実ではやりとりしていなかったからね”と話しかけてくれる。10年も同じ状態でゲームが続くことも奇跡だし、覚えられていた事も奇跡だとおもった。
親友たちは気さくに話しかけてくれて、彼女は今の状態を事細かに教えることにした。そして日々を過ごすうちに、徐々にコミュニケーションや外に対する潜在的な恐怖がきえていき、ついに外出したり、バイトの面接にいけるようになった。
叔母はよろこんでいたし、彼女も気分はよかった。だが時折近場の大学に近寄ると妙な恐怖を感じることがあったのだ。
(あそこだけ、異空間、まるでネットの世界が存在しているような気がする)
そこからは、過去から迫りくるなにか強烈な恐怖や圧迫感が、巨大な黒い影の形をして渦巻いているような気がした。
ネットの親友たちにその事を伝えたが、親友たちは皆そこには近づいてはいけないと話した。そして、君には超能力があると話したのだ。
(え?)
ケイは疑問だった。そんな事を彼らがなぜ知っているのだろう。10年前といえば自分はまだ小学生くらいだ。その頃にいくら親友でも、そんな事を暴露するだろうか?記憶にないまでも、それは疑問だった。そして、強烈な頭の痛みを感じた。自分は、かつて母と一緒にくらしていた。母が死んだことに安心している。母は自分に何かを強要していた事をおもいだした。母は、たしか霊媒師のような事をしていたような。
謎がふえ、恐怖が増えるたびに、それを対処しようとする。バイトを始めたが、時折不調で悩まされることが多くなっていった。彼女は、親友たちが止めたのも聞かず、あの場所へ向かう事にした。あの大学に。母が、自分の記憶や恐怖に介入してくるのがいやだった。そして、なぜあそこにネットとのつながりを感じるかも不明だ。
思い切って大学を訪ねると、簡単に入ることができた。時間帯も導かれるように、食堂へむかった。別に怪しまれることもなく、周囲をきょろきょろしていると、5人組の同年代の若者をみつけてぎょっとした。
(!!?)
それはあのオンラインゲームで作った自分のサブキャラクターにそっくりだったのだ。そのサブキャラの名前には自分のそのネトゲの親友の名前がついていた。フサシ、キミ、ヨシミ、シンジ、カナ。
びっくりとしたら、目が合った。ただ目があったというのではなく、むしろ向こうからこちらを指さしたのだ。
無断で大学に入ったという事もあり、もしかしたら、どこかの知り合いで自分の過去を咎めているのかもとおもったが、だが、段々恐ろしくなってきて、走り去った。
その翌日から、バイトは手につかずしばらく休みを貰うことにした。だが、家にいると、叔母がでかけている時に限って、チャイムがなるのだ。うるさいので時折みにいくとあの五人組の中の数人がこちらをみている。
「そんなわけがない、ネットと現実が交わっているわけがないんだ、どうして私がネットで“彼女ら”をつくることができたのか」
恐ろしいのは彼女らの格好が衣装が、ネットのままだということ、データ作成は記憶を失う前、10年前の事である。
どういう事だ?母親が何か干渉して、幻影を魅せているのか?段々とノイローゼになり、引きこもりがちになり1か月が過ぎた。
その日夢をみた。親友の5人がでてきて、いうのだ。
「あなたは間違っていない」
「あなたは超能力をもっていたから、未来予知ができたのだ」
「母親がしんでパニックなのはわかるが、おちついてくれ、その話もまた後日しよう」
翌日、叔母が彼女が自室で自〇しているのを発見した。動かなくなった彼女の前で、彼女は謝り続けた。
「ごめんね、あんな親で、ごめんね、全部あなたの母親の清子がいけないのよ」
彼女の葬式の帰りに暗い顔で歩きながら、例の5人組が話している。
「でも、誰が救えたんだ、君の透視能力が本物で、僕らも“清子”さんに育てられた超能力者だったなんていったら」
「なんていったって、彼女がショックで記憶をなくしてからだからな、清子さんに裏の面がある事をしったのは、叔母さんに話しを聞いたつい最近だ、虐待をしてまで能力を鍛えていたなんて」
「僕らは現実ではなるべく接触しないようにしたんだ……でも彼女は過去をみようとしてしまった、叔母さんのいうように、どうしようもなかったさ」
ケイの遺書にはこう書かれていた。
「私はすべてを思い出してしまった」
フィクションホラー ボウガ @yumieimaru
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