エサが違う二頭の馬

にっこりみかん

エサが違う二頭の馬

 むかしむかし、ある家に2頭の馬が飼われていました。


 馬小屋に隣同士に並んでいた馬のうち、1頭の馬には、いつも美味しいエサが与えられ、もう1頭には枯草がエサとして与えられていました。


 1頭の馬が隣の馬に言いました。


「君は、そんな美味しくもない枯草ばかり食べていて、辛くないのかい?」


「うん、大丈夫。それより君は、美味しいエサを毎日食べてるけど、イザ戦争になったら、戦いに行かなきゃならないんだよね。その方が辛くない?」


「辛くないよ」


「でも、戦争に行って、帰って来なかった馬はいっぱいいるよ」


「うん、知ってる。でも戦争なんてそう頻繁に起こる訳ない。食事は毎日のことだからね。いくら戦争に行かなくて済むからって、君のように枯草ばかり食べさせられるのはゴメンさ」


「そっか、確かに、いつ来るか分からない戦争のことを心配するより、毎日美味しいものを食べた方が、幸せかも知れないね」


「そうだよ、その方が幸せだよ」


 美味しいそうなエサを食べながら1頭の馬は得意げにそう言いました。


 すると、枯草を食べている馬は、


「でも、ボクは戦争が無くても、戦う練習が苦手だから、のんびりと農作業を手伝っている方がいいよ」


「そうか、君は農作業が好きなんだね。ボクは農作業が苦手だから、戦う練習の方がイイ。なによりおもいっきり走れるしね」


「そうだったね、君は走るの好きだもんね」


 そんな会話をしながら、2頭は仲良くエサを食べていました。


 そしてしばらくの時が過ぎました。


 どうやら人間たちは戦争を始めたらしく、美味しいエサを食べていた馬に、鉄の鎧が付けられました。


「まさか、本当に戦争になるとは思わなかったね」


 毎日、枯草ばかり食べていた馬が言いました。


 鉄の鎧を着せられた美味しいエサを食べていた馬は、


「どうやら今日出撃のようだ」


「そっか、じゃぁ、今日は君と並んで食事することはできないね」


「うん、でも、戻ってきたら、また食事しようね」


「そうだね、そうしよう、きっと戻って来てね」


「あぁ、きっと戻ってくるさっ」


 と、言ったあと、美味しいエサを食べていた馬は人間に引っ張られ、戦場へと旅立っていきました。


 1頭だけ残された馬は、隣に誰もいない馬小屋で、少し寂しい思いをしながら枯草を食べました。


 そして毎日、農作業の手伝いをする変わり映えのない日常を過ごしていました。


 そんなある日のこと。


 農作業を終えて枯草を食べていたときに、飼い主が近づいてきました。


 なんだろうと思い馬は顔を上げると、飼い主が話し始めました。


「おまえは農業用の馬だけど、馬が足らないというので、かんべんしてくれよな」


 と同時に、馬に鎧を着せ始めたのです。


 突然、鎧を着せられたので馬はビックリしました。


 首や背中に、ずっしりと重たい鎧が次々と乗せられます。


 馬は今まで麦や藁などいろいろ担いできましたが、こんなに重い物を担いだのは初めてでした。


 鎧を乗せられた馬は歩くように促されたので、足を前に出しました。


 なんとか歩けましたが、重くてフラフラです。


 しばらく歩くと、鎧を身に付けた兵隊さんがいました。


 その隣まで歩いて行くと、兵隊さんは背中に飛び乗って来ました。


 ズシン、と馬の背中にさらに重い物が加わりました。


 馬は耐えきれなくなり、思わず膝から崩れるようにしゃがみ込んでしまいました。


 すると、飼い主は声を上げました。


「やっぱり無理ですよ、普段から枯草しか食べてないから力が出ないんだ」


「そうか困ったな」


 と、兵隊さんは馬から降りてアゴに手を当てて考えました。


「どうだろう、鎧を脱がして馬だけでもなんとか貸してくれぬか?」


「お国のためなら仕方ありませんが、なるべく無事に返してくださいよ」


 と、飼い主は言って馬から鎧を外しました。


 鎧を外されて、身が軽くなった馬ですが、


(ボクは戦場に行くのか? それも鎧無しで。ボクは美味しいエサも食べていないのに!!)


 馬はとても複雑な思いをしました。


 鎧を脱がされたあと、馬は兵隊さんを背中に乗せました。


 そして、指示されるがままに歩き出しました。


(いやだ戦場には行きたくない。戦い方もしらないし、美味しいエサも食べてないじゃないか!!)


 イヤでイヤで泣きそうになった馬でしたが人間には逆らえず、戦場に出向いて行きました。




 それから何週間か時が経ちました。


 2頭の馬は無事、戦場から帰って来ました。


 そして以前のように2頭並んでエサをもらいました。


 相変わらず1頭の馬のエサは美味しそうで、もう1頭のエサは枯草でした。


 美味しいエサをもらった馬は、エサを食べずに言いました。


「君を戦場で見かけたよ、鎧も着けずに大変だったね」


「うん、戦い方も知らなかったから、みんなが戦っているのを後ろから眺めるしかなかったよ」


「でも、食料や水を運んでくれたよね」


「うん、いつ襲われるか、おっかなビックリだったけど戦っている皆のためだと思って、役になったかな?」


「役立ったも何も、君がいなかったらオレらは食事もできなかったよ」


「よかった」


 と、安堵して枯草のエサを食べようとする馬に、


「ちょっと待って」


 と、もう1頭の馬は、前足を上手く使って、自分のエサを隣の馬のエサの中に入れ、両方のエサを交ぜてしまいました。


 枯草を食べようとしていた馬が驚いていると、


「君も美味しいエサを食べる権利があるよ」


「えっ」


「一緒に食べよう」


「うん」


 と、2頭は美味しいエサと枯草を交ぜ合わせたエサを、仲よく食べ始めました。


「美味しいね」


「うん、美味しい」


 2頭はお互いの顔を見ながら、戦場から帰って、また一緒にエサが食べられていることを

 幸せに思いました。


 この光景を見た飼い主は、これから後、2頭には同じエサをあげたということです。



 おしまい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エサが違う二頭の馬 にっこりみかん @nikkolymikan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ