第7話 ひどくみじめでした・・・


「まぁ俺のことは、おいおい知ってもらうとして。次はお前らに自己紹介してもらうぞ。じゃ、早速だけど出席番号順によろしく」


 来た!

 この時がきたのだ!

 俺の心臓がまた高鳴り始めた。ふぅとひとつ深呼吸をする。

 多分、このクラスで一番自分がで緊張してる――そんな気がしてならなかった。


 苗字が『た』だから、すぐには順番は回ってこない。ちょうど真ん中あたりだ。

 ひとり、またひとりと自己紹介を終えていく。

 ここまではありきたりなものばかりで、クラス内は退屈そうな雰囲気がどことなく感じられる。


 中には、俺みたいにしょっぱなから目立ってやろうと目論んで『おどけ』に転じるやつもいた。

 けど俺からしたら、まだまだだ。

 笑いこそ起こったが、そう。インパクトが足りない。


「それじゃ次は――田島か」


 呼ばれて教卓の前に立つと、全員分の視線が注がれた。注目されていると改めて実感する。


 大きく息を吸った。

 なるべく悟られないように。あくまで自然な流れで話すイメージ。


 

 いざ!勝負の時!!



「田島練一です。私は『影』の多い生涯を送ってきました――・・・」


 途中、堀木先生を含め、誰も口を挟んでくる人はいなかった。ただそれが逆に気にもなった。

 各々がいったいどんな反応を示しているのだろうか、と。


 無我夢中だった俺には、聞いている人の顔色を伺う余裕などなかったのだ。


「――以上で私の自己紹介を終わります」


 最後の言葉をそう締めくくり、手汗でしわくちゃになった原稿用紙から目線を外し、顔を上げた。


 ――でも・・・ん?あれ?


 堀木先生含め、全員が浮かない顔をしている。


 俺が求めているのは違うぞ。こんなのじゃない。


 もっと、物珍しそうで『この人めっちゃ面白いじゃん』って思っているであろう好奇の視線が欲しいのに。


 計画通りだったら、きっと今頃は笑いの渦に包まれていたはずだった。どうしてだ・・・


 冷や汗が首筋から背中にかけて、つぅーっと落ちていく。

 言葉を失い、立っているのがやっとだ。


 いったい何が受け入れられなかったのか。

 いくら考えても後悔しても、後の祭り。ただ唯一。大いにやらかしてしまったことだけはすぐに分かった。

 

 嫌な汗はとめどなく流れ続ける。


「ん・・・まぁ、その・・・なんだ・・・非常に個性あふれる自己紹介で俺はいいと思ったぞ」


 と、堀木先生は一応コメントをくれた。

 けどその言葉は俺からしたら、お情け以外の何ものでもない。


 ズタズタに打ちのめされた気分だった。


 だ、と思った。


 俺は、みじめで、どうしようもない人間だ・・・


『人間失格』に登場する葉蔵も、こんな風に感じていたのかなぁ――

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