その後彼らの行方は知れない~セブンデイズチャレンジ~
秋犬
砂の王国の砂
砂漠の王国に夜がやってきた。月明かりが差しこむ王宮に1人の男が現れた。姫君に目通りが叶った男は、姫君が御座す御簾の前にひれ伏す。
「それで。私に何の用があるのかしら?」
御簾の内から姫君が男に話しかける。
「お願いです、妹の命を助けてください!」
男は声を張り上げる。この国には10年に1度、若い娘を生贄に捧げなければならないという掟があった。
「私たちは幼い頃に両親を亡くし、2人で生きてきました。そんな妹を、生贄に差し出すなんて、私には、私には……」
男の目に涙が光る。すると御簾が動き、中から姫君が現れた。御簾の内にいても姫君は厚いベールを纏っていた。そのベールの間から覗く真っ黒な瞳と健康的な褐色の肌、一房だけ零れている長い黒髪の美しさに男は息を飲んだ。
「何故私に懇願を?」
「姫様は慈悲深いとお伺いしたので、せめて何かしてやれないかと思いまして」
すると姫君はベールの下で含んだ笑いを漏らす。
「私が慈悲深い! それはいい褒め言葉ね……決めたわ。貴方が生贄になりなさい」
突然の言葉に男は仰天する。
「し、しかし! 生贄は若い女という掟なのでは!?」
「ああ、それはね。女の方が食いやすいというだけよ」
姫君はベールの下の顔を顕わにする。その口は真っ赤に裂け、長い舌が覗いていた。
「ば、化け物!」
「あら、私に向かって何という狼藉……よって死刑よ」
姫君が指を立て、虚空に円を描くと宙からおびただしい数の蛇が降ってきた。恐怖で身動きが出来ない男に蛇は巻き付き、その自由を奪う。
「私が身代わりになれば、妹の命は許してもらえるんですよね!!」
「さあ、どうしましょうか」
男の身体は蛇と共に次第に砂となり、サラサラと崩れ落ちていく。
「妹を、妹をよろしくお願いします……」
男の身体は全て砂に成り、姫君の前で山を作った。姫君は長い舌を伸ばして砂を口へ運び、全てきれいに舐め取った。
「あら、若い男もなかなかね。でも私はやっぱり女の方が好き」
再びベールで身体を覆った姫君は御簾の内に戻っていく。
「明日の生贄の儀式は予定通り執り行うことにしましょう。哀れな兄妹1人だけ残すなんて、慈悲深い私にはそんな残酷なことできないわ」
そう呟くと、姫君は御簾の内でとぐろを巻いた。先ほどより豊かな黒髪がより艶めいているのを見て、姫君は大変満足してまどろんだ。
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