11.(12)

 まずは、ハヅで帰りの準備を整えることにした。親と餞別をくれた人達にお土産を買わないといけない。


 よろずやでは、お土産用の装飾がされたコヨミ神殿の札と、日持ちのするクッキーを買って鞄に詰め込んだ。村興しのために開発されたアルバートさんおすすめのお土産だ。この前トリオが頂いたのをつまんだら美味しかったからね。

 みんなには、これとパンフレットを渡して……うーん、やっぱりウヅキ村からはめちゃくちゃ遠いんだよな、ここ。渡しても誰か来るのかな?


 お土産を買った後、この前の約束通り、人間のトリオと温泉に入った。

 ハヅの温泉四回目のトリオは、やっとゆっくりつかれると、結構はしゃいで身体を伸ばしまくっていた。ベンは喜んでタライに入り、水の嫌いなタマはどこかに逃げてしまった。

 温泉上がりに、ニルレンの誕生日祝いということで、肉料理をたらふく食べた。


「マチルダの時の誕生日では何食べようかしらね?」


 分厚いステーキを食べながら、幸せそうに呟くマチルダさん。


 この人は年に二回誕生日を祝うつもりのようだった。 トリオは諦めた顔をしていた。


 腹ごなしも出来たので、ようやくこれから出発だ。


 ハヅからウヅキ村までの旅路は、行きとは違って平和で実に穏やかなものだった。


 道中あったことといえば、トリオとマチルダさんがたまに言い合いしたり、二人とタマとベンがあっという間に魔物を倒すのを眺めたり、移動に疲れたらしいベンにのしかかられたり、タマの機嫌を損ねて引っかかれかけたり。


 お仕着せのような謎の噂も何も聞かず、トリオは「やっぱり昔のあれは異常じゃったよなぁ」と呟いていた。

 マグスの噂を聞く度に逆方向へ行くのに、そうしたらまた違うマグスの話や、何だか怪しい噂話が追ってきていたらしい。


「本当はもっと数年早く片がつくはずだったみたいだったから、アリアも必死だったんじゃないのかしら? トリオが旅立たないわ、想定とは逆方向に行くわで数年経って、わたしも美少女魔法使いの予定がすっかり美女魔法使い兼勇者になってしまった訳だしね」


 マチルダさんが、過去にアリアから聞いた話をしてくれた。

 トリオとアリアのいたちごっこは数年単位だったのか。

 それは本当にアリアはお疲れ様だ。

 僕にはとても優しくて親切なアリアは、トリオには若干雑で冷たい態度だったけど、この恨みがあったのかもしれない。


「まあ、トリオがビビりだったおかげで、アリアやユウ君にも会えたし、自由にできるんだから悪いことじゃないんじゃないかしら?」


 前向きに明るく言うマチルダさんの言葉に、トリオは物凄く複雑そうな表情だ。


「……何だか、物凄く馬鹿にされとるとしか思えないんじゃが」

「えー、気のせいよー。絶対、お仕着せの話よりも今の方が楽しいと思うわよ! だって、普通の勇者じゃ経験できないようなことができたのよ! 面白いじゃない!」


 勇者という時点でまず普通じゃないんだけど、この人のこういう考えは本当に尊敬できる。


「……本当に、羨ましい性格じゃな」


 普通の勇者じゃ経験できないことをさせられたトリオは苦笑した後、柔らかい表情でマチルダさんを見た。


 結婚秒読み段階だったこの二人については、そこまでそういう感じは出していなかった。別に僕がいない間に二人でいちゃついていたということもなさそうだ。


 まあ、大体トリオは僕の側にいてあれこれ世話を焼き、トリオがいないときはマチルダさんが側にいたから、そんな間もなかったのだろう。その辺については本当に僕を送り届けてから話し合うようだ。


 どうなるんだか。


 マチルダさんには、神殿にいたときに、今度教えて欲しいと頼んでそのままになっていた傑作の仕組みを教えてもらった。マチルダさんの言う、世界を完全には切り離さずに、入る対象をごく限られた存在のみに限定する構成と、その暗号化の方法についてだ。

 神殿でトリオがやってたことはトリオしか出来なかった。でも、マチルダさんとアルバートさんがやっていたことは、知識という面では二人しか無理だけど、逆に言うと知識さえあれば他の人でもできることだったらしい。

 トリオとタマとベンがすでに寝ている横で、夜通し聞かされたのは辛かったけど、彼女の技術に関する知識の豊富さと発想は尊敬できる。聞いていて面白い仕組みだとワクワクした。

 今の僕では全部を理解するのは到底無理だけど、いつか理解してみたい。

 空を飛ぶ方法とは違って、こちらは知識があれば何とかなりそうな部分は多かったし。


 もう一人のその道の専門家、トリオにも引き続き剣を教えて貰った。ありがたいことだ。

 剣については、やっぱり鳥よりは人間の方が構え方を見せてくれたり、直してくれたりわかりやすかった。口頭の説明も上手いんだけど、生は違うよね。

 トリオは相変わらず「騎士だったとはいえ、調査が専門じゃったから、褒めてもらえるほど得意ではないんじゃけど」とは言っていた。でも、魔王を倒した仲間の一人と言うことで、やっぱり僕が今まで見たことない凄まじい強さではあった。


 あと、トリオはどう考えてもおとなしくなった。

 マチルダさんに対してぶつぶつ文句を言うときはあるけど、鳥の時の悪態やら勢いは息を潜めた。「正直なところ、いつもと違って好き勝手出来る自分が楽しかったのう」とへらへら笑って言っていたけど、あの荒々しさは本当に鳥由来というか、魔法由来だったようだ。


 魔法凄い。

 こわい



 帰るまでに二週間くらいかかったけど、この普通じゃない非日常だらけの一ヶ月半ちょっとは、こうして終わることになり、僕は無事に我が家へと戻ったのである。



☆☆☆

次からエピローグです。


宣伝。

角川つばさ文庫小説賞向けに下記を書いてみました。

小学生高学年〜中学生くらい向けの戦隊物?コメディです。

割と寄せに寄せまくったため、本作と雰囲気は違いますが、6万字弱の短めですので、宜しければどうぞ。


ブートオン! 電脳レスキューレンジャー! - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16818093083590876679

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