5.(7)

 僕は声を張り上げる。


「二人共いい加減にして!」


 一人と一羽はこちらを向いた。


「そ、そうねっ。わたしったら、スゴ腕美人短槍使いとしては不似合いなことをしてしまったわっ。不覚」

「……すまん」


 言葉の長さが違うくせに、同じようなタイミングで、一人と一羽は言葉を返す。本当にこの人らは気が合うなあ。

 さすが。

 と思ったところで、頭の痛くなる準備で頭をおさえる。アリアに小さく「今は平気だよ」と囁かれたので、手を放した。


「買い出しお疲れ様です。何買ったんですか?」

「アリアちゃんも増えたからその分の食料は買い足しておいたわ。ポーション関連はテービット家で消費した分を補充したの」

「じゃあ結構買いましたよね。お金、いくらですか?」


 僕の言葉に、アリアも肩にかけたポシェットのふたを開ける。

 マチルダさんは「ちょっと待って」と言いながら、ポケットに入れていた手帳とペンを取り出した。


「えーと、三人と鳥一羽で負担するなら」


 ペンを細かく動かすとすぐに答えが出たようだ。トリオについては人間の6割くらいに換算して、さらりと金額を出してきた。


 トリオが荷物から財布を出してきて、僕に渡した。言われた通りの額を支払う。アリアも同じように払っている。


「そういえば、しもべ倒した時に拾ったものも売ったけど、随分と高く売れたわ」

「え、泥棒……?」

「違うわよ。魔物倒した時の魔石。たまに出るでしょ」


 言われてみると思い出す。魔物は魔力の塊でできているから、たまに蓄積された魔石を落とすものもいるらしい。


「見てないけど、しもべ、魔物だったんですね」

「んー、そうね。しもべも魔石も見たことない見かけだったけど、高く売れるならありがたいわ」


 そうしてお金を自分の財布にしまったあと、マチルダさんは、僕とアリアの座っている位置を訝しげに見た。


「ところで、ユウ君とアリアちゃんの座り位置。何があったの?」

「何ってなんですか?」


 自分の状況を考えてみる。

 ベッドの上で三角座りしてる僕。その傍に座っているアリア。二人の距離は結構近い。

 手を伸ばせば彼女の肩にかけることが出来るくらいに。手を伸ばしはしないけど、何もしなくても甘くていい匂いを感じられる距離だ。


 トリオの顔が険しくなる。


「ユ、ユウ、そげなのはちゃんと責任を取れるゆう立場になってから……」


 マチルダさんは色めき立った。


「えっ、何なに! もしかしてラブでコメな恋バナ? 聞く聞く!」

 

 意味が分かった僕は声を荒げた。


「な……、何もしてない!」


 いい匂いを漂わせている女の子はそんな僕をちらりと見る。


「そうやって否定するのって、怪しくないかい?」

「君の問題でもあるだろ!」

「まあね。でも、私はやましいことはしていない。正当なことをしているだけだ」


 さらりと言うアリア。でもさ『やましいこと』はしてないけど、得体の知れないことはやってたような気もするよ、君。


 僕の抗議の視線を、アリアは無視した。顔を背けているけど頬と首筋はピンク色のままだ。絶対気付いている。そんな彼女はマチルダさんとトリオの方を見て明るく言った。


「そうそう、見ての通り、看病の甲斐があって、ユウの具合良くなったよ」

「あら、良かったわねぇ、ユウ君」

「は、はい……」


 釈然としないけど、心配してくれたマチルダさんはありがたいので、同意しておく。トリオは僕のベッドの上に降り立った。


「大丈夫か? もうちょっと休んだ方がええんじゃないか?」

「もう平気だよ」

「……本当か? これから先どこで休めるかも分からんし、休んだ方がええんじゃないか?」


 心配そうなトリオの様子に、マチルダさんがちゃちをいれる。


「あんた本当にずっと心配してたもんね。さっきも『ユウは平気なんじゃろうか。何か元気になるものを買わんか?』ってずうっとずっと心配して、荷物増やしまくってたもん」

「人様のお子さん預かっちょるんじゃから当然じゃろ! 下手なくせにワシの口調真似るな!」


 マチルダさんに対し声を荒げるトリオだが、僕のこと心配してくれたのは純粋に嬉しい。

 そう。大体はこの鳥は面倒見が良いのだ。

 僕は自分の口角が上がるのを感じた。もちろん両側だ。


 マチルダさんはトリオには不満らしい。


「何よぉ。そもそもね、元はと言えば、あんたの言葉使いなんなのよ。わたしそんな変な言葉使い聞いたことないわ」

「西の地方の言葉だよ。ギリギリ国内だけど、結構遠方です」


 マチルダさんの売り言葉に対し、何故かアリアが答えてくれた。


「アリアの言う通りじゃい。はっ、所詮おんどれは世間知らずのヒジョーシキゴミ箱入り女なんじゃい!」

「うわー! さっき『背景を知らなかったとは言え、無神経に、気を悪くすることをゆってしもうて申し訳ない』って頭下げたのはどこのバカ鳥よ!」


 結構ちゃんと謝ったんだね、トリオ。さすが律儀だな。


「じゃから、下手なくせにワシの口調真似るな!」


 翼をひろげてマチルダさんに怒鳴るトリオに対し、僕は言った。


「トリオ、心配かけて、ゴメン。ありがと」


 僕の言葉で、トリオとマチルダさんの動きが止まった。アリアは面白そうに一羽と一人の様子を見ている。

 トリオがふぅっと息を吐いた。


「ユウの具合が良くなったようなら良かったわ」

「うん。マチルダさんも迷惑かけて申し訳ないです。ありがとうございます」


 頭を下げると、マチルダさんはひらひらと手を振った。


「いいわよー、別に。旅の仲間じゃないの」


 僕とマチルダさんは笑い合い、トリオは僕の前に立った。


「串刺し女はどうでもええとして、ユウ、身体にやさしいもん買うてきた。体調が良くなってきたなら飲んで食うた方がええぞ」

「あ、ありがとー。トリオ」


 と、こんな会話をしながら、外は暗くなり、夜になっていった。

 僕はトリオが買ってきた消化に良いパンとスープと、身体を温めるお茶を飲まされた。消化が良すぎて、育ち盛りとしては深夜に空腹になった。お茶はちょっと渋かった。


 そうして明日、僕らはそれぞれ色々な物を心に溜めて、コヨミ神殿に向かうことになったのだった。



☆☆☆


目的地が定まったところで5章終わりです。

これから、しばらくゆるめの閑話が続きます。


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