怪しいセールスマン

帆尊歩

第1話 砂の王国の砂

「これは?」と俺は怪しいセールスマンに尋ねた。

怪しいセールスマンとは言っても、昔漫画にあった笑っているようなセールスマンではない。

身なり、風貌はきちんとしている。

ただ。

なぜこいつとお茶をして、自分が営業を掛けられているのかが良くわからない。

何か騙された?

「これが本日おすすめしたい、当社イチオシの商品でございます」

「はあー」俺はジプロップに入った砂を見せられた。

こいつは砂を売りつけるのか、怪しい、怪しすぎる。

「で、この砂は?」ちょと俺の言葉にはトゲがある。

「これは」そこで俺は言葉をさえぎる。

「いや、当てて見ましょう」俺は少し面白くなって来た。

こいつがこんな砂を、なんと言って売りつけるのか。

確かにセールスマンはその口で物を売る。

それがお客にとって、どうでもいい物であればあるほど、セールスマンの腕が試される。

「当てる?」とセールスマンは怪訝な顔をした。

「そうですね。甲子園の高校球児の汗の沁みた砂とか。ちょっと暑苦しいな」

「いえ違います」

「じゃあ、月の砂だとか」

「いえ違います」

「じゃあ、こんな色しているけれど砂金で、溶かすと金になるとか」

「違います。私をからかっていらっしゃいますか。そんな訳の分らない物と一緒にしないでください」少し機嫌を損ねたようだ。

「あっ、いやすみません。じゃあ、この砂は何なんですか」

「この砂は、砂の王国の砂です」

「はいっ」訳の分からないと言う意味では、似たような物だ。

「話せば長くなるんですけれど」

「じゃあ別に良いです」と言って俺は、席を立とうとする。

「いや、いや、ここまで来たんですから、話だけでも聞いて言ってくださいよ」少し必死さが伝わってきた。

「はあ、じゃあ」仕方なくもう一度俺は椅子に座った。

「昔、昔中央アジアに、ある王国が有りました。

まあ色々問題があるので、王国の名前は伏せます」

「伏せるんかい。それが一番大事だろう」

「まあまあ。王国は砂漠に囲まれ、絶えず砂を掻いて行かないと埋没して行く王国でした。

辺境の小さな王国でしたけれど、絶えず砂の脅威にさらされていました。

あるとき、隣の王国の王女が、王国に助けを求めてきました。

中央の強国が砂漠を焼き払い、この地に王道楽土を築く、付いてはその協力をせよ。

と言われたようです。

でも協力とは名ばかりの、属国にすることが本当の目的でした。

でも小さな王国としては、協力しないという選択肢はなかった。

だから王女はそれに対抗するために、王子の国に助けを求めたのでした」なんかどこかで聞いた事のあるような、ないような。

まあ良いか。

その頃、その当たりには砂漠の中にいくつかの王国が存在していて、その砂の王国もその中の一つでした。

その頃砂漠には、砂虫という砂漠を守る巨大な虫が人間の世界を破壊しようとしていました。

王国の王子は、砂漠と共存する道を模索していたので、王子は隣の王女と共に、強国に対し反旗を翻しました。

でもそれに怒った強国は、砂虫の幼虫を王国の外に投げ落としました。

砂虫は集団行動の生き物です。また親子の繋がりが強く、そんな事をすれば、砂虫が幼虫を奪還するため、無数の砂虫が王国に押し寄せる。

それは無数の砂虫によって、王国が踏み潰されることを意味していました。王国自体が、壊滅してしまいます。

王子は、その砂虫の攻撃を止めさせるべく立ち上がりますが、時は迫っております。(砂虫の怒りは大地の怒りじゃ)と長老は言い放ちます。王子は、王女に付き添われ体を張って砂虫の進行を止めます。

長老は言います。(おお、砂虫から怒りが消える。大地の怒りが消えていく。さあ子供達よ、このめしいた目の代りに見ておくれ。)

(王子様生きているよ、赤い服を着ているよ)

(おお、古き言い伝えは本当であった。その者赤きベールをはおりて、砂の大地に降り立つ。なんという友愛じゃ、王子様はこの王国を守ったのじゃ)」

僕は、何かに取り付かれたように話す営業マンに突っ込むどころか、あっけに取られ一言も言葉を発することが出来なかった。

「その後、王子は王女と協力して、王国をおおいに発展させ、王国の繁栄は千年続きました。

砂虫の進行を阻んだときに舞い上がった砂が、王子のポケットに入っておりまして、その砂がこれです」セールスマンは僕の顔を見つめた。

「今なら十グラム千円で」

「誰が買うかよ。話がなげーよ」と俺は叫んでいたけれど、ここまで堂々としゃべるとは。

それに免じて、十グラム百円くらいなら、買ってやっても良いかな。

と思いはじめた、

でも俺は知っている。

そっくりのアニメが、駅前の名画座でリバイバル上映されていることを。

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