第76話 リプルとアアスフィア3

「やめてってば!」


 人魚の声魅惑が空を震わす。

 兵士の手から投げ槍が離れ、地面をえぐる。


「お友達にひどいことしないで! 許さないんだから!」


 だから、運が悪かったのだ。

 えぐれた地面からクレーターをつなぐ亀裂が走ったのも、亀裂の内側にリプルが両手を広げて立っていたのも、リプルを受け止めようとしたアアスフィアへ兵士の一人が火薬器で攻撃したことも、すべては偶然。

 火薬器の煙が晴れる間に、何か大きなものが沈む音がした。

 煙が晴れた先には誰もおらず、フラクロウは快哉を叫んだ。

 ハイシアは止めることもできずに、その光景を見つめていた。


「あんた、あんなにきれいだったのに俗物になっちまいやがって」


 黙って海を見つめる背中に、どろどろと腐った声がかけられた。

 ミルキだった。

 ハイシアの目は小刻みに震え、しわになるほど胸元を握っている。

 ミルキはその足を噛んで自分に向き直らせると、大きく跳びあがってハイシアの胸を蹴った。


「あんたのせいだよ。あんたがもっと早くアアスフィアとリプルを離していれば、あたしの邪魔さえしなければ……リプルだってまだ生きてた」


 ハイシアは答えない。


「このデクノボー!」


 尻もちをついたその首を睨みつけて、ミルキはハイシアの頸動脈に噛みついた。

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