第75話 リプルとアアスフィア2


 止めるため、ハイシアは重い体を引きずって走る。

 一歩進むたびに舌の上に血塊が乗り、腕を押えていなければ歯の根も合わず、膝も崩れ落ちそうだった。


「アアスフィアにひどいことしないで!」


 左足に体重を乗せて体を引きずるハイシアより、もっと早くかけていく小さな背中が、ハイシアを追い越した。


「やめて! お友達にひどいことしないで!」


 叫びながらリプルが走る。

 危ないから戻れと叫びたくて血塊をその場に吐いても、ハイシアの喉は枯れていて声が出なかった。ヒュゥヒュゥと頼りない喘鳴がこぼれる。

 アアスフィアとフラクロウたちとの攻防はますます激しくなる。

 突き出される槍が、投げられる岩が、地面にクレーターを作っていく。アアスフィアが牙をむきだして、武器やフラクロウの体を払いのけるたびに、衝撃波でテントが崩れる。


「やめろアアスフィア! 集落が壊れる!」

「だまレ、トワイライト! 手前の手引きじゃネェか!」


 アアスフィアがトワイライトの言葉に噛みつき、一瞬だけ戦況に空白が生まれる。

 瞬間、リプルはしがみついていた岩影から、最前線へ踊りだし――――フラクロウは隙を見逃さなかった。

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