イケメン姫と可憐な勇者

道華

1、勇者が攫われた!

古の時代、人間と魔族は世界を人間領と魔族領に分けた。それは長らく続いた争いの終止符とはなったものの、人と魔の間の隔たりを無くすには至らなかった。そして五百年後、魔族の王が人間の姫を攫ったことで再び人間と魔族の争いの火蓋が切られる。世に言う第二次人魔戦争の始まりだった。



ー人間領ー


「ゆ、勇者が攫われました!!」


王宮中に響き渡る大声で兵士が叫ぶ。この国の姫たる私がその報せを受けたのは、庭で剣の鍛錬をしている時だった。慌てて玉座の間へと向かうと、父上が青ざめて頭を抱えている。


「何と……姫ではなく勇者が……」


人間領の果てに位置する我が国には、かつて魔族に姫を攫われたという歴史がある。姫が弱かったばかりに、一体どれほどの民が泣いたことか。私は次代の姫として二度とその過ちを犯さぬよう強く在ろうとしたのに、まさか勇者が攫われてしまうとは。


「もうこの国は終わりじゃ。勇者が消えた今、人間に未来はない……」


消沈した父上に向かい、私は口を開く。


「父上! 王たる者が国の未来を諦めるとは何事ですか! そもそも、この国の命運全てを勇者一人に背負わせること自体が間違っているのです!」


「し、しかし姫よ、この小国には魔王に対抗するだけの兵力が……」


「問題ありません。第一王女としてこの私が必ずや勇者を連れ戻し、魔王を討伐致します!」

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