セックストイ

@mitsuaki00

第1話

それは、ある夜の出来事だった。

彼女にメッセージを最後に送信してから一週間後の夜だった。

彼女からの返信はきていなかった。



僕は、毛布を頭からかぶってベッドの上で丸くなっていた。

携帯を手に握って、もう何時間もこうしていた。


時計の針は22時を指していた。

僕は一人暮らしで、やらなければいけないことはたくさんあった。

この賃貸の部屋には僕一人しかいなくて、身の回りのことは全部自分でやらないと誰もやってくれないのだから。


本当はもういい加減にベッドから出て夕飯をつくらなければならない。

しかし、そのためには流しに山のようにたまった皿と、まな板と包丁と鍋を洗わなければいけなかった。

ただ、僕が暮らしていたのは都会だったから、10分も歩けば夜遅くまで空いている飯屋はあった。


スーパーはもうすぐ閉まるし、料理する気力はない。冷蔵庫の中には食材がなかったような気がするから今夜は外食で済ますことになりそうだった。


僕の頭に今晩の夕食のことが浮かんできたけど、そんなことはどうでも良かった。

飯なんか別に食べなくてもいい。


明日は会社だった。いつまでも起きていては、明日の仕事に差し支える。


この一週間、僕の頭の中は彼女のことでいっぱいだった。

いや、この一週間だけじゃない。彼女と知り合ってから今日までずっとだ。

ただ、彼女がメッセージに返信をくれない,この一週間はとくにつらかった。

彼女のことを想うようになってからは、会社に行っても頭がぼんやりとして仕事が全然手につかない。

そろそろ上司に注意さるかもしれない。


ただ、僕が毎日会社に行ってやるのは同じことの繰り返しで大した仕事じゃないし、

僕にとっては、仕事なんかどうだってよかった。


この一週間、彼女は自身のネットのWebページの更新はしていた。今日も更新があった。僕のメッセージは返してくれないのに、Webページの更新はするんだと思った。


その彼女のWebページには、旅行に行ったとか、アーティストのライブに行ったとか、お洒落な店でパフェを食べたとかの綺麗で楽しそうな写真がたくさん投稿されていた。

自身のWebページにそういった写真を投稿するのが流行している。そして、Webページが楽しそうな写真であふれているとなんだかその人が異性として魅力的な人に思えてくる。


毛布にくるまって、携帯で、彼女の充実した非の打ちどころのないWebページを見ていると、自分の送ったメッセージが退屈なものに思えてきた。



一般に世で広く言われており、常識となっていることがあった。

女性が一週間をすぎてもメッセージに返信しない、そのときは、拒絶の意思を示しているのだと。


では、このようなときどうするか。これも世で広く言われている男女の間の当然のしきたりである。

男性は女性の家まで直接行って、女性の寝室の窓ガラスに小石を投げてぶつける。

それで、部屋の明かりが消えた場合は、完全な決定的な拒絶を意味する。

そうなったら男性はみじめに即刻、自分の家に帰らなければならない。

男性が女性の家の周辺にしつこく残っていた場合、警察がやってきて迷惑行為防止条例違反、ストーカーとして逮捕される。


初犯の場合、刑務所にいくことはまずないと言われているが、逮捕されれば職場や家族に連絡がいき、新聞に名前が載る。


僕はストーカーで逮捕されたことはもちろんなかった。

自分がストーカーで逮捕されるなんて考えたくもなかった。すごくみっともなくて恥ずかしいことだと思った。



女性の部屋の明かりが消えずについたままだったときは、男性の思いが実を結んだときである。

女性は、寝室の窓を少しだけ開け、その隙間からペンとメモ帳を外に投げる。これは、女性が男性にメッセージの送り直しを許すという意味である。

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