#005.Appetite

 ハイメ..驚いた。まさかを自ら言い出すとはな...それに出身地さえ覚えていないほどの『後遺症』であんなにまともに話せるのか。

「あの夜に何があったのか非常に気にはなるが...取り調べは注意深く様子を見る必要があるか。」


 静かに寝息を立てるハイメを一瞥し、立ち上がる。椅子を壁に寄せ、階段を下りる。かなり神経を使ったが、敵意は感じなかった。アイツじゃないのか?

 まとまらぬ考えを頭の隅に寄せ、カウンターをのぞき込む。

「おかみィ~~!いないのォ~~~?」返事はない。

 メビウスが諦めて外に出ようと振り返ると、丁度扉が開き、女性が一人入ってきた。その女性は彼を見るなり、

「あら、メビちゃんじゃない。上の子はもういいの?」と言い、腕に抱えた大量のパンの入ったバスケットをカウンターの奥に放り込んだ。

「今日は、ね。それよりおかみ、聞きたいことがあんだよ。」

「ん-?手紙ならまだ来てないわよ?」女性は裏に回り込みながら、そう答えた。

「そうか...ならイイんだ。来たらまた教えて頂戴な。」メビウスのウインクが女性の目に入ることはなかった。

「りょ~~かぁ~い」女性の眠たげな声を背に、メビウスは『施設』を後にした。


 今日も町は平和だ。風に乗って向かいの通りにある酒場からの香りが鼻をくすぐる。

 「今日もラムだなァ。」めいいっぱいその香りを吸い込み、独り言ちた。

「ラムッ、ラムムムムッ♪」スキップで酒場へ向かう。

「ラッム肉、ラッム酒っで洗いたいィィ~~~♪」ターンを挟む。

「でっも見たくない、子羊ラムの遺体ィィ~~~♪」フードをかぶって、脱ぐ。

「毎日がラム日和ィィィ~~~~!」酒場の扉を開く。


 夜まではまだ長い。

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