極東の守護者たれ

竹本田重郎 

第1話 日中ロ極東防共圏

【前書き】

 繰り返しになりますが、全てを許せる人向けとなっておりますので、苦手に思われた方はブラウザバックを推奨いたします。また、日本機甲部隊を主とする予定ですが、決して海軍を疎かにすることもございません。どうぞ、ご安心ください。


【本編】


=赤色ソ連と白色ロシアの国境線=


 この世界のロシアは二分割された。


「また来やがった。今日で何度目だろう」


「国境線を超えて来るなら、47mmを撃ち込んでやるのに」


「軽戦車で突っ込んで来ようものなら地雷原にご案内しよう」


 赤色ソ連と白色ロシアの国境は極東に設けられている。二つのロシアが睨み合う格好であるが、白色ロシアは大日本帝国と中華民国と親密な関係を構築し、三カ国の軍隊が赤色ソ連の電撃的な侵攻に備えた。


「いつになったら統一されるのか」


「…」


「俺の国も100年前は内乱状態にあった。いつか白色に統一される時が来る」


 二つのロシアがあってはならない。ロシアは一つでなければならず、赤色ソ連と白色ロシアは再統一を目指すが、白色ロシアは極東の不毛の大地で不利が否めない。そこで、白色ロシアは歴史的な和解という大日本帝国と防共協定を締結した。これに国交を復活させた中華民国を含め入れる。白色ロシア=中華民国=大日本帝国の三カ国による事実上の防共同盟が構築された。


「敵の戦車の活動が活発化している。味方の戦車も控えないと困るぞ」


「連中の戦車はとにかく足が速い。地雷だけじゃ突破される。速射砲だけで勝てる相手じゃない」


「白い軍隊が極東の大国に頼ることは正解だったよ。世話になる」


「嘗ての敵が今は友なんてなぁ。考えられんよ」


 ロシア帝国で発生した社会主義革命に際して主要国はシベリア出兵を行う。特に大日本帝国は社会主義の南下と浸透を恐れ、各国の派遣した規模の数倍の大兵力を出した。これに現地シベリアの白色ロシアは急速に接近する。白色ロシアと大日本帝国の間で日露戦争のわだかまりを解消した。白色ロシアはロシア帝国の復興に赤色ソ連が敵となる。大日本帝国は社会主義が侵入ことに赤色ソ連を敵対視した。


 ここに白色ロシアと大日本帝国に利害が一致する。シベリアの大地に白色ロシアが正当に誕生した。欧米各国は渋面を示したが、社会主義の波及は好ましくなく、白色ロシアと日本を防波堤にすることで認める。旧ロシア帝国の大地にソ連とロシアに分かれることは次第に認められた。


 ロシア帝国の赤色ソ連と白色ロシアの分裂は既に16年が経過している。両国は相も変わらず再統一を掲げて小競り合いを繰り広げた。国境線の壁や鉄条網は部分的だが、お互いの兵士が睨み合い、ギリギリを攻めた挑発行動が日常茶飯事である。


「俺の妹がソ連に残されているんだ。俺は兄として兵士として助けたい」


 広大な大地は未だ統一を知らなかった。


=東京=


 日本、中華民国、白色ロシアの三首脳は東京会議の場で高らかに宣言する。


「ここに日中ロ極東防共圏の確立を宣言いたします。我々はソ連を認めません」


 日本と白色ロシアが社会主義の浸透を防ぐことは理解できる。


 中華民国に関しては少しばかりのザックリとした説明が求められた。


 中華民国こと中国は長期の内乱状態に置かれたが、中国国民党は日本と白色ロシアの支援を受けて北伐を行い、中国共産党を隅から隅まで排除している。中国共産党は懸命に抵抗するが、背後は白色ロシアに抑えられ、正面から中国共産党と日本が攻めたてられ、モンゴルの同胞へ駆け込む前に壊滅した。


 中国国民党は中国を再統一した後に汪兆銘と蒋介石の権力闘争が勃発する。この戦いは平和派の汪兆銘が勝利した。彼は日本と白色ロシアと三カ国で協力関係を結ぶ。そして、不平等や不確定な部分の是正を進めて近代化の道を切り開いた。


 かくして、極東に強固な反共が構築される。


 これに喜ぶ者は伝統的に陸軍かと思われた。


 いいや、意外と、そうでもない。


「これで我が国の方針は陸軍主導の北進論に定まったかもしれない。しかし、海軍は南進論を放棄したわけでもない。なんてこともなかった。陸愚と海軍と外務省による秘密の会議で二兎を追おうではないか」


「二兎を追う者は一兎をも得ず。それだけは避けねばならん。外務省は対英交渉次第で穏便に南方を確保できると主張した。我々も無駄に弾と油、兵士を消耗するつもりは毛頭無い」


「陸軍に予算をとられると思いましたが、ロシアが買い取ると言いますからね。良い塩梅じゃないですか」


 海軍関係者は対ソを睨んだ陸軍の北進論が有力者されることを嫌う。これが通常であるが、外務省が良くも悪くも介入し、陸軍も海軍を無碍に扱わなかった。海軍と陸軍と外務省の三者協議の場が設けられる。日本政府は北進論か南進論の二者択一を避けて両方とも採択した。


「扶桑型と伊勢型を売却できたことは大きい。金剛型のような速力はない上に長門型の火力もなかった」


「白色ロシアは海軍の増強も熱心にやっている。おかげで我々は新戦艦2隻の予算を獲得した。さらに、戦艦以外の旧式艦も売り払って新造艦の枠を得ている」


「しかし、時代は航空機へと変わりつつある。それは否定できない。現に赤城と加賀が空母に改造された」


「空母建造も念入りにやりましょう。敵は米英ではなくソ連です。上手く行けば日英同盟の復活まで見込める」


「そこは白色ロシアの出方次第だがな」


 さて、海軍は意外と落ち着き払う。


 陸軍はというと、案の定で喜んでいる。


「海軍さんには悪いことをした。陸軍の北進論が主導権を握る。これで機甲部隊の大拡充が大手を振って行える」


「九七式中戦車、九八式軽戦車、九八式重戦車の戦車隊に限らない。砲戦車と自走砲まで目白押しという」


「赤色ソ連はドイツと手を組んでいる。白色ロシアから共有された情報は興味深い」


 陸軍は自前の北進論を採択されて嬉しいことは当然である。中華民国と白色ロシアと共に赤色ソ連を叩く用意を進めた。広大な大地を駆け回る機甲部隊の整備を邁進する。真新しい航空部隊の拡充も進めているが、結局のところ、戦闘の勝敗は地上戦が決した。


「ドイツの動きも怖い。どうせです。海軍陸戦隊に戦車を渡しても悪くないのでは」


「そうだな。別に悪くない。なんだかんだ、仲良くやることが一番」


「我々は海軍から火砲を貰う。我々は戦車と自走砲、砲戦車を海軍へ譲渡する。お互いに旨味のある関係を続けるが吉です」


 日本は戦車開発も遅れを取った。欧米に追い付け・追い越せの標語の下で鋭意開発を進める。国産の八九式中戦車を送りだして自信を得る。中華民国や白色ロシアを経由して外国製の輸入も怠らない。


 現在は九七式中戦車と九八式軽戦車が主力を務めた。これと同時期に野砲の機動化の名目で自走砲と砲戦車の開発を開始する。もちろん、広大な大地の輸送を担う装軌車、半装軌車、貨物車も忘れていない。従来の馬匹と人力に頼る輸送からの脱却すべきだ。


「現実的な問題に入ります。赤色ソ連の挑発行為は日に日に過激を増している。我々から手を出せば不当な行為と塗りたくられた」


「防衛に徹して赤色ソ連軍に付け入る隙を与えない。しかし、国境の兵力を急に増やしても…」


「鉄道の建設は進んでいます。ごまかしは利かなかった」


「かと言って、何もしないことも」


 赤色ソ連を睨んだ施策は多岐に及ぶ中で鉄道網の整備は急ピッチで行われた。国境線や第二防衛線、第三防衛線など拠点同士を結んでいる。いつ赤い津波が押し寄せるかわからない。部隊の迅速な展開と撤収を行える鉄道は重要だろう。鉄道の建設工事や改修工事も大恐慌対策の公共事業と機能した。


 仮に国境を超える本格的な侵攻が行われる場合は即座に自衛権を行使する。鉄道網を駆使して虎の子の機甲部隊や高火力の重砲と野砲を注ぎ込んだ。いきなりドカッと配置しては逆に挑発行為とみなされる。じっくりと着実に時間をかけて防衛線を強化した。


「赤色ソ連が仕掛けてくるなら…」


「来年あたり」


 彼らは一様にヨーロッパの火種であるハーケンクロイツを脳裏に浮かべる。


続く

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