貞操逆転世界で”DV彼女”に疲れて自殺しそうになっていたら、校内で有名な孤高の金髪イケメン美少女さんに救われたので浮気して幸せになろうと思います!

遅桜ノンネ

第一章 始まりの出会い

第1話 典型的なDV彼女からの…

 その日は深夜二時まで彼女の朱里ちゃんと肌を重ねていた。



「いおりータバコ買って来てー。」



「え?…も、もう、夜、おそいよ?」



「あ?なんか言った?」



「う、ううん…なんにも…」



 見ればタバコの残りが減ってきていた。いつも彼女はこんな風に機嫌が悪くなる。



 今の今まで生まれたままの姿で気持よさそうにタバコを吸い、もう片方の手で僕のお尻を揉みしだき愉快そうにしていた彼女だったが、今は貧乏ゆすりをして苛立ちを露わにしていた。



「お金は…」



「あ゛」



「も、もちろん、僕が払っておくね。」



 僕らは高校の授業が終わり次第ずっとホテルに引き籠っていた。



 結果、僕は疲れ果てベッドの上で突っ伏す羽目になっていたのだが、朱里ちゃんからの大切な頼み事だ。



 力が上手く入らない足腰をプルプルさせ無理矢理起き上がった。



「十分だぞ、それ以上は待てない。遅れたらどうなるかわかってるよな?」



「も、もちろん、だよ。急いでコンビニ行ってくるね。」



 サッと雑に身支度を整え、赤紫色に変色した肌が見えないように上衣はきっちりと羽織った。



「じゃあ、行ってきます…」



 特に返事はないとわかっていた。



 いつからだろう。いってらっしゃいの言葉が返ってこなくなったのは。





 外はどしゃぶりの雨だった。



 冬や春はもうとっくに終わったはずなのに、僕の身体は寒さからか小刻みに震えていた。



「傘、ないな…」



 でも、朱里ちゃんの頼み事は何よりも優先しないといけない。僕は覚悟を決め、濡れる事も厭わずに雨の世界へ飛び込んだ。





「ふぅ…ついた。」



 雨の中、走ること約五分。



 深夜二時すぎ、暗闇の中ぼんやり輝くコンビニエンスストア。



 こんな時間だからか自分以外のお客さんの姿はなかった。



「まぶしい…」



 珍妙な入店音を聞きながら、いち早くレジへ向かう。



「そういえば…」



 方向転換。確かゴムの残りも減って来ていた事を思い出す。ついでに買い足しておこう。



「朱里ちゃんを怒らせたくないしね…」



 以前、何も言われなかったので用意しなかった事があった。その時は無駄に朱里ちゃんを怒らせて迷惑をかけてしまった。



 『そんなんで生きていけると思ってんの!?言わなくても行動しろよ!このグズ!オラァッ』



 その経験から言わなくても事前に準備しておくこと。大切な学びを得る事ができた。



「朱里ちゃんの好きな…」



 0.01の少しお高めのやつを三箱選び、レジへ足早に向かう。



「いらっしゃいま…はぁ…またあんたか…」



「へへ…こんばんは…これと、いつもの番号のやつ…ください…」



 この店員さんとはもはや顔馴染みだった。



「言っとくけど未成年にはタバコは売れないよ…この前だって店長にバレそうになってギリギリだったんだ…」



「ご、ごめんなさい、でも…そこをなんとか…」



 僕は何度かこの店員さんと取引をしている。



 未成年の僕はタバコを買えない。そもそも店側は売ってくれない。



 しかし、以前床に額を擦り付け必死に事情を説明し頼み込んだら、『じゃあこれは私が買った事にするから、それを偶然どこかに落としてしまって、その先の事は私は知らん。』と店員さんの優しさに付け込んだ譲歩を引き出す事に成功してしまった。



 今回も同様に拾い、謝礼金を店員さんに渡した。必要ないと店員さんに毎回言われるけど、いけない事に手を貸してもらってる以上受け取ってもらえないとこちらはどうしようもなくなってしまう。



 口数の少ない店員さんは何か言いたそうな表情で僕を見つめてくる。気づかないフリをしていたかったが、無駄だった。



「なあ、そろそろあんた限界じゃないか?…そんな彼女はさっさと別れた方が幸せになれるぜ?」



「え…」



 憐れみの視線が突き刺さる。なぜか胸がジクジクと痛む。なんで?



 店員さんの言葉が頭の中でリフレインする。



「……で?」



「ん?」



「なんであなたにそんなこと言われなきゃいけないんですか!?」



 気づけば僕は走り出していた。大恩ある店員さんに醜く怒鳴り、せっかく会計したビニール傘は置き去りにして。



 それでも彼女に頼まれたタバコ、それにゴムの入った袋はしっかり掴んでいて、なんだか無性に今の自分が情けなかった。



 コンビニを出て、来た道を全速力で戻っていく。



「…っ」



 今の僕はそんな惨めに見えるのだろうか。頭がぐちゃぐちゃに沸騰し、勝手に目じりから一筋の涙が零れ落ちた。



「あっ」



ドンッ



 注意が逸れていて目の前に人がいる事に気づけなかった。肩をぶつけ、バランスを崩し、尻もちをついてしまった。



「あ、わりぃ…」



「……」



 持ってきていたポーチや袋の中身が雨でびしょびしょの地面の上に散らばっている。ぼーっとそれらを見つめ、ふと我に返ってしまう。



 こんな深夜の雨の中、自分はいったい何をしているんだろう、と。



 ふと視界の端にうつる。赤く錆びれた欄干、そこから覗く雨で氾濫気味の濁流。



 たしかこの橋は自殺の名所として有名なところだった。水深はそれほど深くはないけど、とにかく流れが早くて一度落ちたら溺れてしまうと噂だ。



 そんな正確性の欠片もないネットの情報が頭の片隅にチラつく。



「……」



 それにしてもさっきから耳鳴りが酷い。全く雨音が聞こえない。



 まるで怪異に魅せられるように川から目が離せない。急激に鼓動が高鳴り出し、呼吸が浅くなる。



「…おい、お前、宮沢だよな?」



「ふぇ…?」



 ジャージ姿の目つきの鋭い女に睨まれて、夢から覚めたみたいに頭が急速に現実へと戻ってくる。



 危なかった。僕は今一瞬何を考えていた?



「なんでお前がこんなところにいる?」



 目の前の金髪の女は誰なんだろう?



 どこかで見たことがあるような気もするけど、はっきりと思い出せない。



「おいっ、大丈夫なのか?、さっきから様子が…」



 女のさらに鋭くなった視線が僕を貫く。



 こちらは知らないのに、あちらは一方的に知っている恐怖。それこそ幽霊的な存在を疑ってしまう。



 でも、もしこの女が身近な存在だったとしたら、こんな歓楽街付近に制服姿でいる事実がバレてしまっているのは非常に不味い。



 それに、今の女の手には僕が落としたタバコやゴムの箱が握られていた。



ブルルッ



 その時スマホに着信。確認すると朱里ちゃんから催促のメッセージが届いていた。



 『はやくしろ』



 ドキッと身体がすくみ上がる。これは急がないとマズイ。



 この事実を好機と捉えて、僕は女が持っていた箱らをひったくるように取返し、「じゃ、じゃあ、失礼します…?」と関係性が見えない相手にするような曖昧な別れを発し、走り出した。今日はよく走る日だ。



「あ、お、おい!…待てよ!」



 背中に呼び止める声がかかるが、かまわず走った。途中転びそうになるが、全速力で。



「ハァハァ…」



 しばらくして後方を振り返る。追いかけて来ている様子はなかった。



「ふぅ…怖かった……」



 僕は助かったと安堵し力が抜けそうになるが、いやいやむしろこれから!と気を再び引き締めて早足にホテルに戻るのだった。



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【★あとがき★】


※第一章完結まで毎日投稿予定です!


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