アルシャード山月記
江良野
第1話 雷光魔弾(サンダーボルト)
俺の名は李徴。
唐の陝西省に住む詩人だ。
唐の官僚としての道を外れて、自然豊かなこの地で日々漢詩を紡いできた。
だが唐政府は日増しに税金を上げ、民の生活は苦しくなるばかり。
ここ陝西省でも反政府運動が活発になり、活動家と官僚の間で度々争いが発生している。
ある日俺が虎に変身して山野を駆け回っていた時、かつての友、袁参と遭遇した。
その時は適当に応対してその場を退散したのだが、後になって村の民に聞いてみると、彼は監察御史として、反政府活動家を取り締まっているとのことだった。
御史と言えば、あの憎き高適という男のことを思い出さずにはいられない。
「ククク…つまらない詩だねえ」
「なんだと」
「ボクは侍御史をしながら詩を練習している。李徴君。君は仕事もせず、ただ山野を歩き回るばかり。そんな生き方では、一流の詩は紡げないよ」
河右で開かれた詩会で、奴は俺の詩をコケにした。高適の詩は優勝したが、あんなのはしょせん、審査員達が権力者である奴に媚びた結果だ。大自然の中で紡がれる俺の詩こそ、歴史に残るにふさわしい…
思い出すだけで、むしゃくしゃしてきた。
俺は虎に変身し、再び山野を駆け回った。
「はあ、はあ…」
運動すると喉が渇く。
俺は近くの小川で、水を飲もうとした。
その時…
「ぐはっ!」
俺の脇腹に衝撃が走る。
「魔法攻撃だと…!」
魔法弾が放たれた方向を見やると、人影があった。
「だめじゃないかあ。虎はおとなしく狩られなきゃ」
「高適…!」
「ここで死ね、李徴!雷光魔弾(サンダーボルト)!」
高適が放つ魔法弾を必死で避けながら、俺は一目散にそこを退散した。
「くっ、奴は唐政府直属の魔術士だったのか…」
唐政府内部には、魔術士がいるという噂は聞いていた。
俺が虎に変身できるのだから、政府に魔法使いがいてもおかしくない。
おそらく俺の変身能力が袁参経由で皇帝の耳に入り、討伐対象リストに入れられたのだろう。
「戦うしか…ないのか…」
俺は村に史思明という男がいた事を思い出していた。
彼は腐りきった唐政府を革命する、などと言っていた。
唐に対して反政府運動を展開している彼なら、官僚である高適を倒すことに協力してくれるかもしれない。
李徴は虎から人間に戻ると、史思明の館へと歩を進めた。
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