婚約破棄された悪役令嬢、超チート能力で大逆転勝利(仮)【完結】

右助

1. 婚ヤく破Ki

 ヴォルザード王城謁見の間で一組の男女が言い争っていた。

 一人は長い赤髪が麗しい気品あふれる女性、もう一人は短い茶髪が眩しい凛々しい男性だ。

 女性の名はメアリ・ワイザーマン。王国の中で最上位の権力を持つワイザーマン公爵家の一人娘。

 男性の名はオルコー・ヴォルザード。この国の王子である。


「そんな、何故いきなり婚約破棄など!」

「当然だろう! お前が行ったリート嬢への数々の侮辱と暴行、よもや言い逃れはさせまいぞ!」

「リート嬢? それは一体どなたのことですか?」

「とぼけるな! おい、彼女を通せ!」


 オルコーは一人の女性を謁見の間に通した。

 その者こそリート・ネスターナ。

 メアリが数々の侮辱と暴行・・・・・・・・を行ったとされる女性だ。


「お、王子殿下……」

「おぉ……リート。来てくれたのか」

「はい。王子殿下のためと思えばこのプリシラ、勇気を振り絞る事ができました」


 二人は寄り添う。まるで仲睦まじい恋人のように。許嫁であるメアリの目の前で。


「王子、どういうことですか。ご説明を」

「ご説明を、だと!? ふざけるのもいい加減にしろ! よりにもよってリートの前で、なんという言い草だ」


 メアリがちらりとリートを見ると、彼が見えないところで笑っていた。

 邪悪な笑みだ。メアリを陥れようとする、邪な思いがにじみ出ている。


「……とうとう、そこまで曇ったのですか」

「余裕ぶっても無意味だ。見ろ、お前が行った数々の非道の数をな!」


 王子がばらまいた紙の一つを手にとって読む。そこにはリートから聞き取ったとされる、非道・・が書かれていた。

 足を引っ掛けた。熱湯を被せた。食事に毒を盛った。刺客を送られた。などなど。

 ここまで良く思いつくものだと、メアリは素直に感心する。


「これほど大量に良く思いつきましたね。私でも思いつかないような非道な行為が書かれてましたよ」

「ひっ……王子殿下、私、怖いです」


 リートはメアリの視線から隠れるように、王子の背中に回った。きっとあの向こうでは心底、醜悪な笑顔を浮かべているに違いない。

 怒りがピークを超えると、逆に何も感じなくなる。思わぬ発見をしながら、メアリはこう言った。


「まずははっきり申し上げます。私はリートさんと接点がありません。何故接点もない相手へ、私が策謀を巡らせなければならないのですか?」

「それはお前がリートを妬んだからだろう!」


 メアリは頭が痛くなってきた。何故、接点がないと言っている相手に妬むことが出来るのだろうか。

 何なら、今日初めて顔を合わせた。

 彼女はとある可能性を頭の片隅に置きながら、こう王子に質問した。


「そもそも、婚約破棄とリートさんとの話に何の繋がりがあるのでしょうか?」

「良くぞ聞いてくれた! ならば宣言しよう!」


 王子は大げさな身振り手振りで、こう告げた。


「私、オルコー・ヴォルザードは、リート・ネスターナとの婚約をここに宣言する!!」


 予感は的中した。

 だから、公衆の面前でこうも勇ましくメアリを糾弾できたのだ。


「まさかの茶番でしたか……。目先の愛に囚われ、そして籠絡する者が書いたお話。バカバカしいことこの上ない」

「茶番と言ったか!?」

「言いましたとも。私でさえ、この婚約が国の平穏を盤石にするものと心得ていたというのに。それを知らず、何と浅慮なことか……!」

「王子殿下! 誰よりもこの国を愛し、考えている殿下に対してあの発言……! 王子を侮辱するどころか、これはこの国への侮辱! 万死に値します!」


 ついに本性を表したリート。

 彼女は言葉巧みに王子を扇動し、ヒートアップさせる。

 あそこまで頭に血が上った者の発言など、分かり切っていた。


「メアリ・ワイザーマン! 貴様の発言は不敬罪並びに反逆罪に該当する! よってこの場をもって死刑を言い渡す!」


 王子は身を隠していた近衛兵に命令する。


「近衛兵! あの者を即刻死刑にせよ! 首をはね、その顔を泥で汚すのだ!」


 それは考えうる限り、最悪の死刑方法だった。

 貴族令嬢としての尊厳すら剥奪する、もっとも重い刑。

 近衛兵たちは戸惑いながらも槍を持つ。いくら相手が公爵家令嬢とは言え、王子の命令に逆らえる者はいない。

 ある者は震え、ある者は瞑目し、ある者はやるせなさに感情を無くす。


「いけぇ! 殺せぇ!」


 近衛兵たちは機敏な動きで間合いを詰め、一斉に槍を突き出した。

 凄惨な殺戮ショーを前に、王子は高笑いをあげ、リートは影でクスクス笑う。

 その間、メアリは微動だにしなかった。


「あぁ、哀れな私。信じようとした者に裏切られ、こうして命を終えようとしている」


 一瞬の間に、槍の穂先はメアリの柔肌へ触れようとする。

 短い人生の終焉を前に、メアリの表情は苦々しいものに――――はならず、彼女の口元は三日月状に歪んだ。

 













 そこで、この私自らが王子、愛人、その場にいた人間全てを殺害し、究極の力で世界を焦土にしてしまいましたとさ。おしまいおしまい」














「   は   ?   」




 執筆者・・・である女性は、思わず立ち上がった。

 テキストエディタ上に、勝手に文字入力されていく。


「『近衛兵たちは機敏な動きで間合いを詰め、一斉に槍を突き出した。

 凄惨な殺戮ショーを前に、王子は高笑いをあげ、リートは影でクスクス笑う。

 その間、メアリは微動だにしなかった。』、か。こんな文章こうしてやるわ」



   近衛兵たちは機敏な動きで

                  間合いを詰め、一斉に槍を突き出した。

 凄惨な殺戮ショーを前に、王子は

                   高笑いをあげ、リートは影でクスクス笑う。

         その間、メアリは

                    微動だにしなかった。



 文章が、引きちぎられる。

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