46本目「終幕! これにて大団円!!(後編)」
ヤリマン狩りたちもこの場は既に退散し、残ったのは僕たちだけだ。
「うっ、うぅっ……」
残るは姫咲の今後についてだ。
ボロボロと涙を流している姫咲――何に対して涙を流しているのかは容易に想像がつく。
きっと、いや間違いなく、やってしまったことへの後悔ではなく『姉と同じ学校に通う』という夢が破綻してしまったことに対してだろう……。
反省してないよなー……この性根、もうどうにもならないかなー……。
「どうするんだ、姫?」
「……どうしましょうねぇ……」
姫咲の拘束は既に解除している。
後は放置していってもいいんじゃないかなーとは思うだけど、流石に姉である姫先輩と小さいころから知っているであろう本多先輩は放置しておくつもりにはなれないみたいだ。当然か。
かといってこのままじゃ話が進まないし……そもそも、姫咲の新しい問題はこの場でどうにかなるレベルの話じゃない。
「…………真由美ちゃん、ちなみに模試の結果は?」
「え!? この状況で話すんですか!?
…………えっと、C判定でした……」
おお、なかなかだ。
油断はできないけど、この調子で勉強を怠らなければ年末くらいには合格が見えてくるところまで伸びるんじゃないかな。
それはともかく……僕が口出すことじゃない気はするけど、『身内』の先輩たちよりも『部外者』の方が動きやすいかな、この状況は。
異を決し、僕は姫咲へと話しかける。
「えーっと、
「貞雄さん、サキで良いですよ。
ちなみにわたくしは『リン』と呼ばれているので、これからは姫先輩ではなくリン先輩で――」
…………悩ましい提案だけど、却下だ。
姫先輩は姫先輩呼びが相応しい。
これは揺るぎない事実だ!
「じゃあ、サキちゃん。
君はヤリ学に入りたい――その気持ちは本当なんだよね?」
「…………なに、あんた……?」
「僕はヤリ学の1年生だよ。で、姫先輩の後輩」
「え? 姫じゃなくてリンって――」
「君と同い年だね」
その言葉に姫咲――サキがぎろりと僕を睨みつける。
同い年、かつヤリ学生ってことを『不合格になった自分を馬鹿にしている』とでも解釈しているのだろう。まぁその誤解はされる覚悟はあった。
怯まずに僕は続ける。
多分、
「僕さ、去年の今頃の模試の結果――E判定だったんだよね」
「えっ!?」
サキだけではない。
姫先輩たちや、今年受験生の真由美ちゃんも驚いている。
そりゃ驚くか。F判定は規格外すぎて逆に信憑性を疑うレベルだけど、僕も僕で最低評価なわけだしね。
夏休みは受験生の天王山、だったっけ。
ここで頑張らなければ受験はかなり厳しい――しかも今はもう夏休みが終わるころだ。
「でも、僕はヤリ学に合格できた。なんでだと思う?」
「…………勉強したから……?」
「その通り。
もうね、本当に勉強したよ……というか勉強以外のことを何もしないくらい、勉強したよ」
もう1年前かー……遥か遠い昔の話のように思えてくるなぁ。
……ぶっちゃけ、あのころは勉強のしすぎで頭がどうにかなっていたのか、若干記憶が曖昧なんだよね……意識飛ばしながら勉強してたのか、僕。
「
「マジだよ。流石に今当時の模試の結果は持ってないけどね」
お守りというか自分を奮い立たせるために取っておいたんだよね。
多分、まだ実家のどこかにあるんじゃないかなー? あんまり疑うようなら取ってくるけど。
「サキちゃんさ、とにかく今は勉強しようよ。
君がお姉さんのことが大好きなのはわかるけど、勉強しなきゃ大学には入れないんだよ?」
「そ、そんなの……わかってるし……」
「大学に入らないと何も話は始まらないよね?
じゃあ姫先輩が言う通り、君が優先すべきは大学受験の勉強だよ」
当たり前のことを彼女に告げる。
去年の僕とほぼ同じ位置に彼女はいる。
だからこそ、きっと僕の言葉は届く――合格することなど到底無理だと思われた男が、ヤリ学に合格できたのだ。その実例そのものは、きっと彼女の『やる気』に火をつけてくれる……そう思う。
「ほ、ほんとに……?」
食いついた!
僕は自信満々にうなずいてみせる。
「こんなことで嘘つかないよ。疑うようなら去年の模試の結果持ってくるよ、多分まだ実家にあると思うし」
「…………」
「ちなみに、去年の夏でE判定、年末くらいでB判定になったんだったかな?
大丈夫、僕にできたんだから君にだってできるさ」
まー、結局のところはサキ自身のやる気と根気、それと最後は『運』になっちゃうけどね……受験なんてそんなもんだし。
「……サキ、貞雄さんの言う通りですよ」
「だな。チビ姫だって高校までは姫と同じところに通えるだけの頭はあるんだ。大学受験だってしっかり取り組めば何とかなるさ」
「……わ、私も頑張らないと……!」
ついでに真由美ちゃんのやる気にも火が点いたようだ。
未来の後輩候補だし、がんばってもらいたいもんだ。
……サキが無事に入学できたとして、僕の後輩になるのはちょっと怖いけど……まぁ僕より姫先輩の身の安全の方を心配した方がいいか。
「…………わかった……サキ、がんばる……」
やがて、サキが泣き止み、顔を真っすぐあげて姫先輩、そして僕たちへと顔を向けて宣言した。
……うん、憑き物が落ちたみたいだ。
「お姉、他の人も……いっぱい迷惑かけてごめんなさい」
もう一つ、ちゃんと頭を下げてくれた。
やらかしたことは大きいけど、まだ取り返しはつくはず。
ここから更生してくれるのを願うばかりだ。
「はぁ……サキも予備校代を出してもらっているのですから、もっと真剣になりなさい」
「うん……
予備校代もバカにならないからね。
養子先の親御さんにももっと感謝しないと。
……ヤリの名家の跡取りが自分の欲望のために勉強ほったらかしでヤリマン狩りたちを従えて元姉を襲ってた、とか家に閉じ込められてもおかしくないくらいのやらかしだし……。
下手したら前科つきかねなかったしね……身内の問題だから大事にならずに済んだのは良かったのかな。
ヤリマン狩りたちは自業自得な面もあるしね。何度も言うけど。
「これで大団円、ですかね?」
「おう、チビ姫ももう大丈夫だろう……合格できるかはわからんがな」
そこだけはね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ともかく、これにてヤリマン狩りの襲撃に端を発した姫先輩、そして僕たちの戦いは幕を閉じるのだった。
サキもこれからは心を入れ替えて真面目に勉強に打ち込んで、無事に大学に合格できることを祈るばかりだ――ぶっちゃけこいつが身近にいるの怖いけど……。
とんだオープンキャンパスになってしまったが、今日で一気に解決まで持っていけたことだけは良かっただろう。
僕らの頭を悩ませていた大きな問題はこれで解決したってことだしね。
……残る問題は、まぁサキ自身の頑張り次第かな。入学後も大変そうだけど……。
あー……後は、僕自身の問題かー……。
当初の
姫先輩――彼女のことが気になって仕方がない。
最初は美人だからという理由だったけど、今となっては――それもあるけどそれだけじゃない、かな。
……自分でも上手く説明できないけど……。
「ねぇねぇ、お姉♥」
それはともかくとして、すっかりと立ち直ったサキ。
姫先輩にべったり……ってほどではないけど、距離はやけに近い。まぁ姫先輩自身が嫌がってるわけじゃないみたいだからいいか……。
「なんですか、サキ?」
「サキ、これから勉強がんばる!!」
「そうですか。合格できればいいですね」
「うん♥」
こうして大人しくしてれば、まぁちょっと姉にべったり気味ではあるけど普通の子……の範疇ではあるんだよなぁ。
性根が底なし沼すぎて全て台無しになってるけどね……。
そんな姉妹の微笑ましい (?)やり取りを見守りつつ、僕らもこの場から移動しようかとしている時だった。
「あのね、サキ、受験のお守りが欲しいなー?」
「お守りですか?
仕方ないですねぇ……何が良いですか?」
受験のお守りねぇ……
問われたサキは、今日一番の笑顔で答えた。
「お姉のパンツちょーだい♥」
「…………」
「お姉のパンツがあれば、サキがんばれるよ! 大学も合格できちゃうよ!!」
「………………」
「あ、今履いてるやつだと帰りが大変だよね♥
じゃあこれからお姉の家に行くから、そこで脱いだのちょーだい♥♥♥」
Oh……。
「――『
「お゛ね゛え゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!! 靴下でもいいからあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
姫先輩の奥義により、ヤリの替わりにサキが吹っ飛んで行くのだった。
あー……ダメかもしれないね、こりゃ。
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