9本目「無情! サークルの姫の掟!!(後編)」
「えーっと、『サークルの姫』って――アレでしょ? サークルクラッシャーの同義語 (※偏見)でしょ?」
大学もサークルもどちらも入ったばかりだし、イメージでしかないけどそう間違ってないんじゃないかな。
要するに、『男だらけの場に混じってチヤホヤしてもらってる女子』ってことだよね。
で、時機を見てサークルの男にちょっかいだして仲違いさせることが目的 (※誤解)のヤベー女だという理解だ。
……そう考えると、面子的には姫先輩もヤリサーの姫とは言えるのかな?
ただ、姫先輩の場合は……この前のランパで見た限り、ほぼ間違いなくヤリサーの中でも『最強』のヤリマンだ。むしろ、彼女こそがヤリサーの会長と言ってもいいくらいの実力者だろう――ちなみに姫先輩は2年生なので会長ではないというだけっぽい。来年、本多先輩の次の会長は間違いなく姫先輩だろう。
姫先輩は『姫』は姫だが、チヤホヤされる立場ではなく皆の先頭に立って突き進む……姫騎士というかそんな感じだ。
それはともかく。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「おいなんだよそのため息は」
コッティはまたもやわざとらしいくらいに大きなため息を吐く。
「どうやら貞雄氏には一から教えなければならないようでござるな」
別に学びたくないのだが? 絶対今後の役に立たない知識だし?
僕の内心の言葉は当然届くことなく、コッティは語る。
「サークルの姫――『姫』というからにはもちろん相応の待遇と恩恵を受けるものでござる。
拙者らが正しく姫君に仕えるように」
…………思ってたんだけど、コッティってオタクじゃなくて武士なんじゃないの? そもそも、『ござる』言葉使うオタクなんて見たことねーよ。
「しかし、姫の側もまた、己の扱いに対して報いることが求められるでござる。
ま、簡単に申せば『褒美』を与える必要があるということでござるな」
「褒美ねぇ……」
僕なんて真っ先に身体で支払うことが思いつくわけなんだが。
……そう考えれば、ある意味僕の考える『サークルの姫』ってのも的外れじゃない気もするけどね。最終的にサークルがクラッシュするけど。
「貞雄氏の考えていることはわかりやすいでござるな。デュフフ」
「そりゃ……本物の姫と部下ってわけじゃないんだし、学生で与えられる褒美なんて限られるでしょ」
「そこは否定しないでござる。もっとも、求められる褒美はサークルによって異なるでござろうが」
……ふむ。
そりゃそうか。他に彼女がいる男がご褒美に私をあげる、なんて言われても困るだけだろうし。
「ちなみに、アニ研だと?」
「まぁそもそも拙者らは姫など不要でござるが――先ほどの者の熱意に打たれ、姫として遇する替わりを求めたでござるよ」
「ふむふむ」
「拙者らが求めるのは
アニ研の即戦力とは一体……。
まぁとにかく、コッティらアニ研の連中は――あれか、『サークル活動に本気で取り組むこと』をさっきの子に求めたわけか。
で、それに耐えきれなくて泣きながら撤退……そんな流れなのかな。
「んー、僕はアニ研とかよくわからないんだけど……アニメ見てればそれでいいんじゃないの?」
漫研なら漫画描いたりする必要もありそうだけど、アニ研だとどっちかというとアニメ鑑賞するのが主なんじゃないかなー? もちろん、自主制作アニメを作るとかも十分ありそうだけど。
と、コッティは再びため息。むかつくなこいつ。
「貞雄氏は何もわかっておらぬようだな……」
よくわからないって言ってるじゃん……門外漢だもん、わかんないよ。
「拙者らのサークル名を思い出して欲しいでござる」
「……アニ研、アニメ研究会だよね?」
「いかにも。そう、アニメ
つまりは――見るだけではなく、文字通り『研究』をしなければならぬのでござる!!」
「お、おう……?」
ずずいっと僕に接近して熱弁を振るう。
男に顔近づけられても嬉しくないのと、彼の勢いに圧されて思わず後退りしてしまった。
「今期の覇権は○○で決まり~、○○たんは俺の嫁! ……そういった見方を否定はしないでござる。
が、それはあくまでもアニメを楽しむだけの見方でござる!
我らは何か? そう、アニメ研究会でござるよ!
ならばやるべきことは徹底的な『研究』でござろう!?
現在放映されているアニメを全て視聴するのはもちろんのこと、コマ送り・一時停止を駆使し全ての作画と動画をチェック!
また、地上波放送であればスポンサーの確認も怠ってはならぬ! 原作付きであれば当然原作のチェック、作者や出版社の確認。過去の実績から推定される未来の動向――研究することは山ほどあるでござるよ!
研究分野も人それぞれでござるな。拙者は『アニメそのもの』と広範な研究をテーマとしてるでござるが、人によっては『音響』『楽曲』『声優』と更に絞ったテーマに取り組んでいるでござる!!
アニメは日本だけのものではござらん、海外のアニメの研究に挑む者も当然いるでござるよ。リアルタイムでの視聴が難しく、配信サイトにもないようなマイナーな作品もある故、違法な手段に手を染める者がいるのは悲しいことでござるが……中には実際に海外に『協力者』を派遣し録画データを収集する猛者もいるでござる。
忘れてはならぬのは、『今』だけではなく『過去』の研究でござるな。我が校がひかくてきあたらしいが故、過去の蓄積が他の大学に比べ劣っているのは辛いところでござる……。
そうそう、『アニメ映画』については研究会でも意見の分かれるところでござる。アニメではあるが『映画』の分野になるのかどうか、日夜激論が繰り広げられているでござるよ。拙者個人としては、等しく『アニメ』として扱うべきであると常々思っておるでござるが……そうした研究対象そのものに対する議論もまた、研究会の醍醐味と言えるでござろう。
――むしろ近年の研究では、『3Dアニメ』に関する議論の方が熱いでござるな。我々が培ってきた研究結果、研究手法とは異なるアプローチを必要とする――まぁ培ってきたノウハウ全てが無駄というわけではござらんが――『未知』の領域と言えるでござる。『クレイアニメーション』もここにきて再び議論の俎上に乗せられ、さらには『人形劇」も含めるのか? 2次元と3次元のハイブリッドの扱いは? ……議論の種は尽きぬでござる。
何の話でござったっけ?
……ああ、そうそう。姫に求めるモノでござったな。
貞雄氏も理解した通り、我らの研究は幅広く、そして日進月歩で進化しながら増殖もしているでござる。
我らが欲するは『研究者』の数でござる! 仮に研究そのものが出来ずとも、資料の整理や収集などやることは山積みでござる――恥ずかしながら我らも研究にのめりこむと寝食を忘れてしまうことが多々あるでござるよ。研究ができぬのであれば、替わりに研究の補助をしていただきたい――それが我らが姫に求めるモノでござる。
適当にアニメを見てチヤホヤされればそれでいいなどと言う軟弱者は不要でござる!!」
オタク特有の早口キモい(暴言)。
「……つまり、アニ研で姫やるなら、コッティたちと同じように研究するか、お手伝いするかはしろってことかな?」
「いかにも」
「……ちなみにさ、僕は知らないんだけど――他のサークルだとどうなるのかな?」
「ふむ? 拙者もそこまで詳しいわけではござらんが……飲みサーに入った学科の友人によれば、飲み会の日程調整、店の予約、飲み会の流れを作り出し、状況次第で2次会の手配に各メンバーの
……それもう姫扱いされても割に合わないくらい働いてないかな……?
この分だと、テニサーとか運動系サークルの姫はほぼマネージャー扱いな気がする。
翻って、我らがヤリサーの姫はというと……まぁ普通に選手だよね……そもそも、うちのサークルに『姫』という謎概念があるのかは不明だし、求められる役割が他と違うだろうけど。
「貞雄氏の疑問は尤もでござる」
心の声を読むな。
「先程の者のように、生半可な気持ちで姫になろうとする者も多いが、同時に姫を欲するサークルもまた多いでござるよ。
この需要と供給の問題を解決するために、『サークルの姫を派遣するサークル』が存在するでござる」
「…………??」
「各分野のプロフェッショナルたちが母体となり、各サークルに現れた姫たちを吸収することで生まれた、と伝えられているでござる。
……先程の者も、アニ研の姫として実績を積み重ねていけばいずれ『姫サー』に招かれたかもしれぬが……」
派遣前提の姫と、現役姫の集まりなのか……。
姫同士でバチバチにやりあってるのか、それとも互いに愚痴りあっているのか……何にしても関わり合いになりたくないなー。
「ところで貞雄氏――さっきも少し話したが、我がアニ研は人手を欲しているのでござるが」
「お断りさせていただきます」
体育会系よりある意味ヤベーとこじゃん、アニ研。
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