日常7
『早かったな。
まあ、入んなよ。』
『・・・はい。』
古本屋の男は俺が来たことに驚きもせず相変わらずぶっきらぼうに話しかけてきた。
俺は勧められるがまま恐る恐る店の中に入った。
『で、人生売る気になった?』
『は?』
『だから、人生売る気になったからここに来たんだろ?
渡した名刺にもちゃんと書いてあったろ。』
『この名刺の事か?
確かに変なキャッチコピーが書いてあるけど、ここは古本屋なんだからこれは何かの比喩だろ?
何だよ、"人生お売りください"って。』
『ああ、それは俺が考えたんじゃないからな。キャッチコピーのセンスについては俺に言わないでくれ。
あんたの言う通りここは古本屋でもあるし、ダサいキャッチコピーの通り人生の買取もやってる店だ。』
一瞬、この男が俺のことをバカにしているのか、それとも何か怪しい詐欺に掛けようとしているのかと身構え、表情を観察したが嘘をついていたり騙そうと思っているような顔には見られなかった。
『えっと・・・人生っていうと、あの人生?俺の?人生?』
『そうだけど。』
『・・・意味が分からん。帰る。』
『そっか。
帰るってんなら止めはしないけど、説明だけでも聞いて行って損は無いんじゃないか?そのためにわざわざこんな時間にこんな所まで来たんだろ?』
人生を買い取るというのはやはり意味が分からない。怪しい、怪しすぎる。
変な壺を買わせられたり最悪犯罪に巻き込まれることもあるかも知れない。
だが、男の言っていることにも一理ある。
『じゃあ、少しだけ人生の買い取りについて説明してくれ。』
『そうこなくっちゃな。
じゃあ、奥に入ってくれよ。』
『え?いや、それは・・・』
『ああ、俺がお客さんを襲うとか、金をだまし取るとかそんな事考えてるんだな。』
『・・・』
『ここに来るだいたいの客がそんな反応するんだわ。
じゃあ、ここで説明するからちょっと待っててくれよ。』
そう言うと、男は店の奥に消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます