万引きババア ①
ピンポーンと入店の合図が店内に響く。時は夕暮れ、店内にいる客の数は全部で三人。いや今来たから四人か。
正直あまり気は進まない。だが実害が出ている以上は対応をしなければいけないのが雇われの身というやつだ。両手はフリー、靴紐は結んであるからすぐに追いかけられるだろう。ふと後ろに目を送ると、すぐに手の届く場所に電話も置いてある。これならすぐに天使局に電話ができる。
完璧だ。さあ、どこからでもかかってこいババア!
カタカタと事務的にキーボードを叩いていく。ふと、机の上にあるモニターに目をやると、店内には客が三名、今一人来たから四名。特にレジに並んでもないし、大丈夫だろう。
俺はそう考えながら、もう一度パソコンを見つめた。
俺が思うに、コンビニ店員はかなりのマルチタスクをこなす。昨今、数多くのバイト先が存在している中、古くから存在するコンビニ店員はその中でも一際多くの仕事をこなす必要があるのだ。接客、レジ打ち、品出し、廃棄チェック、発注……などなど挙げればきりがない。そのどれも大した量じゃないだろ、なんて言われたら言い返す気にはならないが、実際仕事の種類はかなり多い。
そして今、俺は
客は放っておいていいのかって? 問題ない。何故ならコンビニ店員は基本的に二人一組。片方が裏で事務作業をしている時は、もう片方は表で品出しや接客をすることになっているからだ。それはこの異世界コンビニにおいても例外ではなく、レジには若い獣人の女の子が立っている。
なんて、誰に言っているかも分からない言い訳を頭の中で繰り返しながら、俺はパソコンと睨み合っていた。しかし、その睨み合いは急に止まってしまう。
「……数が合わねえ」
パソコンの画面には売れた商品数と、店の在庫数が載っている。しかし、どう数えても数が合わない。
「なんでだよ……」
俺はパソコンの画面に不快感を感じながら、更にページを進めていった。すると、どうやら数が合わないのは一つだけではなさそうだ。
これは流石におかしい。となれば店長に伝えないといけない。俺は近くにあったメモ帳を取ると、一つ一つ画面の数をメモしていく。
「ひのきの棒三つ、旅人の服三つ、薬草五つ……。全部で 265G か」
1Gは大体俺の感覚だと十円って所か。じゃあ全部で約二六五◯円の損害。少ないようにも思えるが、無視できる数字ではないな。が、しかし。
俺はキーボードを少しだけ叩いたあと、ゆっくりと立ち上がりメモを持って店内に向かった。店長にはメールを送っておいたから少ししたら来るだろう。それより、さっき入ってきた客がレジに行きそうだ。問題は問題として、今は目の前の接客が大事だ。
俺は獣人の女の子と挨拶を交わし、レジで待つ。その時ふと、店内に違和感を感じる。なくてはならないものがない感覚。というより、今さっきまであったものが、なくなったような……?
俺はざっと店内を見渡す。今店の中にいるのは店員を合わせて全部で六人。さっき裏のモニターで見た人間しかいない。
一人目は身体がデカく赤い肌の鬼のような人物。二人目と三人目は一緒にいてファンタジー系の装いで身を包む若い男女。男の方は大きな剣を背負っているな。そして四人目は四十〜五十代の女性で手には手提げを一つ。あとは自分を含む店員二人だ。
ふむ……、別に怪しそうには見えないなあ。というか、そもそも疑っている訳でもない。あくまで何かが足りないような気がするだけだ。
それから少しして、三組の客は買い物を済ませて帰っていった。その時特に怪しい素振りはなく、監視カメラにも何も映ってはいなかったので、俺はいつの間にか忘れるように仕事を続けていた。
翌日、俺はまたしても裏のパソコンと睨み合う。
「なんで、合わないんだよ……!?」
俺の目は、昨日に続いて数の合わない商品画面を映していた。
────第二話 万引きババア① 完
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