花園の子供たち
ドリママ
捨てられた子供と生き残った子供
一枚目:大きな鮭はらみお結びは牛乳と一緒に食べる
昨日の夜ふけから
普段は街が
突然降り出した雪で数分の遅延が発生している。僕は息を深く吸って吐き出した。仕方がない、思いながら雪に覆われた街を眺めた。
前方には高層ビルが山森になって地平線の彼方まで見えた。また、後ろに振り向くと同じくらいの距離感で
今年の春も例年と同じく、巨樹から咲く数百万本の花びらで、都内から半径十キロ内は花粉の
「いらっしゃいませ——」
眠そうなバイトさんの声を後にして、僕は早速おにぎりコーナーに向かった。最近、唯一の楽しみだと言っても過言ではないほど、朝と昼に『大きな鮭はらみお結び』を食べることにハマっている。
他のおにぎりと違って、大きな鮭はらみお結びは三日連続で食べても全く飽きなかった。魅力は基本に充実した
勿論、今の話はあくまで個人的な好みに過ぎない。けれども、牛乳はお米の味を水のように流さず、また
他のメニューでは味わえない食感を
「ポイントカードと袋はいりますか?」
「いいや、いらない。お会計はスイカで」
俺は、お会計中の客を通り過ぎて真っ直ぐに見えるおにぎりコーナーから目を通した。コンビニに入った瞬間から、買ったばかりのおにぎりを大きく
しかし、おにぎりコーナーは空っぽだった。大丈夫だ、とまだ整理されていない在庫の箱に眺めながら、俺は希望を抱いた。バイトさんが気付かない内に青い箱に目を背けて中身を確認する。ちらっと見た限り、『大きな鮭はらみお結び』の品出しは早いみたいだ。仕方がない、と絶望したものの、売り残りの玉子入りのサンドイッチを一つ掴み取ってカゴの中に入れた。
「パゥパあぁ——」
牛乳を買いに足を踏み出した先にとある少女がドリンクコーナーのガラスに顔を潰して中を眺めていた。親と思われる大人は周りには見当たらなかった。
僕は少女の隣に行って
夜が長い冬を背後にして、深い眠りに落ちた巨樹の影が長く伸び、星が淡く黒い空に光り、そしてすべてがまだ眠りの中にある夜明けに、子供が一人でコンビニの中を自由に闊歩している。上着を着た僕でさえ、寒さが骨に沁みる天気だ。流石に女の子一人で、保護者もなくコンビニを彷徨くことは
したがって、改めて疑う余地もなく、この子は
長く見つめたせいか。僕の視線に気づいたノバナと目が合った。青緑の色で薄く輝く珍しい瞳を持っている。だめだ、と僕は自ら強く叩き込んだ。せっかく休みを貰って準備したガーデンズ学園の受験だ。仕事を増やしては
「すみません、何か問題でもありますでしょうか?」
レジに立っていた若いバイトさんが、在庫のチェックリストを手に持ち、僕の方に近寄った。制服のネームプレートには『星野』と表記されている。
「ノバナが店内に入っています。結構前からいたようですが、見覚えがある子だったりしますか?」
「あれ?ネコちゃんだ。ネコちゃん、また来たの?これ以上はうちも面倒見られないって言ったじゃん。まだ業務時間中だから食べ物をすぐあげれないよ」と
僕はその反応を見て、腹から膨らんで来る感情を抑えて、用心深く
服装以外にもノバナから栄養不足が一際目立った。身体はあばら骨が布一枚の表からでも見えるほど痩せている。寒くて乾燥し、唇が割れて荒れた。一日中、まともなご飯を食べた記憶もない様子である。それだけではない。足元には適切な治療のタイミングを逃して自然に治った時の
素人でも一目で分かるくらい助けが必要な子だけど、周りから簡単に手を差し伸べなかった理由は、おそらく鼻をつく臭いが原因だと思われる。数日を洗ってない髪から汚れと雪が混ざって、手で触るだけですぐ汚くなった。だと言ってこのまま放置するには酷い有様だ。
「お知り合いのノバナ見たいですね」
「ええ、まあ。三日前から私がシフトにいる時間帯に寄って来るノバナです。二日前は店長がいる間にも来てて店の中を走りかけて大騒ぎでした。店長が
「バベルよりは、施設に通報すれば無料で引き取ってくれると思いますが」
「やりましたよ?初日からずっと
すでに片足を突っ込んでいるような状態の中で、半分はいきがかり上関わってしまったという部分がある。しかし、今、助けてあげるとすれば、正式にこの件に関わってしまうことになる。仕方がない、と
僕は連絡先アプリから『小泉』を検索して通話ボタンを押した。
「もしもし、ダレでシュカ?」
「朝っぱからすみません、小泉さん。東京支部のユニットⅡの三に所属している
「タンサキ……、炭咲君?あれ、今日、休みじゃないんだっけ?どうしたの、こんな時間に。何かあった?」
まだ寝ぼけている様子だから詳細の説明は後にして、現場の説明から始めた。「実はノバナを発見して電話しました。年齢はまだ多くても十歳未満で、性別は女の子です。少なくても一週間以上は放置されているノバナです」
「
「
「ありがとう、教えてもらった住所で居場所が特定できた。今から出かける前提で四十分ほど掛かるかな」少し沈黙が二人の間に流れた。「よく考えてみれば、そうだ。今日ガーデンズ学園の共通テストがある日だよね?仕事して大丈夫?遅れていない?」
特に仕事をした訳ではないから小泉さんには問題ないと誤魔化しておいて、コンビニまで安全運転をお願いした。言われなくても気を付けるよ、とけんつくを食らった。
「あの、すみません。まだ業務時間だから私はこれで大丈夫ですか?」
「電話が長くなってすみませんでした。もうすぐTGCの関係者がこちらに訪れる模様です。それまでにこの子を預かってもらえますか?」
協力してくれた割には業務に支障が出て困った顔をしている。気持ちは分かるが、せめて子供の前ではやめて欲しい顔立ちだ。星野さんは、小泉さんの情報をメモ書きして渡した紙を受け取理、ノバナをスタッフ専用の休憩室に入れて連れて行った。僕は待つ間に寒くないように、自分の赤いマフラーをノバナに巻いてあげた。
気がつけば自分ひとりになっていて、内心、と釈然としないものを感じつつも、次の電車まで送れると受付時間に間に合わないそうだった。後は小泉さんの対応を信じて取り急ぎ駅に向かって走った。
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