バスがくるまで

空一

6月。梅雨。

ジメジメとした空気が、今年の夏の訪れを感じさせる。

朝6時から降ってきた雨は、止むことなく強さを増した。

これでは、今日は自転車で学校に行けそうにない。

僕は天気予報士を呪って、急いでバス停へと駆け出した。


『バスがくるまで』


1.雫


バスを待っている時間は、やっぱり退屈だった。

僕と違う学校の生徒は、次々と服についた雫を落としてバスに乗り込んでいくが、僕の待つバスはまだだった。

雨の強さがさっきよりも静かに、柔らかくなる。

いつもより空気が澄んでいる感じがした。普通の人は逆だろうが、僕はこの空気が好きだった。

ヒュー

風が吹いて、バスが通り過ぎていく。残ったのは、僕と、もう一人だけだった。

僕と同じように、待ちぼうけている生徒を横目で見る。

見ない顔だな、と思った。いや、僕は日頃人の顔なんて見ないから、そんなのは当たり前なんだけど。

でも、僕はその顔にほうけて、見とれてしまっていた。

冷たくて、さみしくて、どこか遠くを見つめているような。

そんな印象を彼女に受けた。ただ、それだけで見とれてしまっていた。

雨がやんで、鳥が鳴き始める。雲から顔を出した太陽が、彼女を照らした。

その姿が、雫(しずく)みたいに輝いて見えた。

「…あの。」

先に声を出したのは彼女だった。僕が気づかず彼女をずっと見ていたからだろう。彼女の顔は、困惑に満ちあふれている。僕はどう返せばいいか分からなかった。

ただ、崩れてしまいそうな彼女の瞳を、ただじっと、見つめていた。

風が吹いて、木の葉に溜まっていた雨の雫が、カーテンみたいにおりてくる。

彼女はそれに目を見やって、そしてこう続けた。


「バスが来るまで、一緒にお話しませんか?」


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