HUMAN-自己顕示欲とマスメディアの乱用-
靑煕
第1話 有名人
ある晴れた昼下がり。
心身を休養させるためにわざわざ取った長期の有給休暇。初日ということもあり日が高くなるまで随分と眠り混んでいたらしく、目覚めて後十数分。ふわふわとした感覚に微睡んだ視線を彷徨わせていた。
「こんなこと…よく何年も続けられたな。」
長期休暇の理由…ある噂が原因だ。
最初は馬鹿げた巷の噂話に過ぎなかったが、余りにも肥大し言葉の暴走は瞬く間に伝播した。
噂話もここまで続くと傍迷惑だ。
そんなにわたしに注目したいのか。
もう12年目になるというのに…愚かな連中だ。奴らの不道徳極まりない行為に迷惑し、話題もすべて根拠のない嘘の内容ばかり。
学歴や経歴に傷が付く。田舎町の悪習に振り回されていられるものか。この町には中学中退や中卒がごろごろいる。まるで破落戸だ。
他人の家に向かって大声で
「芸能人っっっっ!!!!!」
と叫ぶ程の礼儀知らず。
ふてぶてしく無礼千万。完全なる迷惑行為だ。
何を根拠に叫ぶのか。否、単に悪口を言いたいのだろうが奴らの信じている情報は只の噂に過ぎずでっち上げもいいところ。私に対する名誉棄損および誹謗中傷の行為だ。
有名人は辛い。
着目点は何か他人と違っている。
脳内の声は現実と異なる会話を続け揶揄されるためにある存在という固定を否定する。
私を罵るがいい。
無知な若人よ。
「はぁ…」
再三に呆れ果て浅く溜め息を
何が原因で斯うなったのかは皆目検討も着かないが、大衆の仮想による悪罵と中傷が繰り返され、思いもよらぬ噂の流布に最初は大いに戸惑い絶望の淵に立たされた。言うなれば奈落…人生のどん底だ。
斯くしてその噂の実態とは…
実に馬鹿馬鹿しいことで不名誉極まりなく口にするのも億劫なのだが。
この町の連中は老若男女問わず私を見掛けると
“超能力者”と口々に言う。
ある者達は陰で寄り添いながら囁き合い、ある者は離れた場所から怒号を上げ。
加えて上記した通り…彼の者達は「芸能人!」と声を荒げる始末だ。
何を隠そう、私の住む町では大卒の者は少数派で、都会帰りの公務員や職員と一般の間で会話の受け取り方が食い違ってしまう。都市部の大卒者は大半が公共職員として務めるが、周辺住民の殆どは大学どころか入試もろくに経験していないのも事実。地元では大学入試を推し進める進学校も僅かに残るが、入試の偏差値は地に堕ち、中学校の問題を基本のみ扱う中間高校(と言っても中学生レベルの基礎を高1~3年の授業に採り入れた学校)、最悪の場合小学生レベルの読み書き計算を授業として採り入れる偏差値のない高校など…入試レベルには到底及ばない高校で充満している。
それ以前に小、中学生の段階で学問放棄をしたまま成人を迎える者も多く、現代社会の常識など一切通用しない学歴無視からなる陸の孤島。
小学校3~4年レベルの計算は疎か、字の読み書きすら危ういレベルの成人が全体の半数近くいる。無論、言葉の認識力も足りず語彙力のない愚行を平然と繰り返す若者で溢れた学力底辺地域。都会の人間が思い描く長閑で心安らぐ田舎暮らしなど存在しない。即ち絵に描いた餅。何の魅力も見処もない。
そんな田舎町だ。
思い起こしたせいで胸焼けがする。田舎者の無知に嫌気が差して独り
初春とはいえ、外は充分な陽気に満ちているようだ。青空の隙間から響く子供のはしゃぐ声…脳が覚醒する。
ふと思い立ち支度を始めた。
そう、苛立ちを治めるには此しかない。
「貴重品と…あとは」
手頃なサイズ
シンプルなデザイン
淡い色遣い
一冊のノートとペンケース
手に馴染む彼らを鞄に忍ばせ
気に入りの靴を引き出す
朝食は…
遅いランチにするか。
いくらでも書きたいことがある。
今日は…いや明日も
きっと其処へ向かうだろう。
春物のコートを纏うと鞄を引っ掛ける。
しっかりと施錠し解き放たれる為に踏み出す。
其は冬の終わりだった。
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