第11話「イケメン聖騎士VSかわいい弟子」

「お久しぶりです、魔女殿」




 初めて会った時よりもぼろぼろだが、何故か表情はすっきりした様子の騎士が家の前に立っていた。


 汚れているはずなのに瞳はきらきらと輝いて何かのオーラ出ている気がする。眩しい。




「お師匠様!」




 驚いて軽く悲鳴を上げてしまった私に気が付いたユーリがすっ飛んでくる。


 ユーリも成長して可愛さに磨きがかかってきた気がする。


 黒髪というこの世界の人間の中では異質な外見で最初は周りから浮いてはいたが、色々な知識を得たことで村の人たちの交流も増えてきた。


 今では怯えたような雰囲気が消え、人当たりの良い青年になったと思う。


 しかし私にはまだまだ子供のように甘えてくるので可愛い盛りだ。


 魔族と過ごしていたので美しいものには免疫が付いたと思っていたが、目の前に美しいものと可愛いものが並んでいるのはなかなかに壮観だ。




 そんな現実逃避をしている私を見透かしたように、騎士はユーリにも軽く会釈をするとまるで物語の騎士のように片膝をつき、私に首を垂れた。




「魔女殿、どうかわたしを雇っていただけないだろうか」


「や、雇うって?」


「賃金が欲しいのではない。貴女を守らせてほしい。できれば近くで暮らしていたいのです」


「勝手なことを言うな!お前に守られるほどお師匠様は弱くない!」


「ユーリ!怒るところはそこじゃない!!」




 事態の把握ができず大混乱だ。


 とにかく、騎士には立ち上がってもらい話を聞くことにした。


 家の中に招き入れようとしたが、ユーリが烈火のごとく怒るので庭先に作ってあったイスとテーブルに座ることにする。


 私の横に座ったユーリが騎士を射殺さんばかりの目で睨みつけていた。




「お前、ここには二度と来るなと言っておいたよね」


「私は魔女殿とは約束したが、君とは約束をした覚えがない」


「・・・・!!」




 何故か険悪なムードの二人に挟まれる私。




「とにかく、お話を聞かせてください」


「ええ、まずは前回できなかった自己紹介をさせてください。私は聖騎士のディアンという者です」


「せ、聖騎士??」




 騎士改めディアンが語るところによると、ディアンは帝国の神殿に仕える神族に加護を受けた騎士。


 件の雇い主は帝国の神官で、ミリヤムの渡した薬の効果は抜群。


 明日をも知れない重病だったのが嘘のように回復。


 しかしディアンが持ち帰った薬が魔女の物だと知ると、そんな得体のしれない物を神官に使った罪で投獄。


 恐らくは自分が探しに行かせたことがバレると経歴に傷がつくとかそういう考えからだろう。


 死刑か流刑かという裁判の最中に逃げ出してきたそうだ。




「利権と金にまみれた神殿に嫌気がさしていたところだったのです」




 にっこりほほ笑むディランの表情に迷いはない。


 あまりの内容に開いた口がふさがらない。


 何となく波動が清らかだとは思っていたが、まさか神族に繋がる騎士だったとは。


 元は魔族の私とは正反対の存在ではないか。


 眩しいはずだ。




「それで何故私のところへ?」


「薬を持ち帰った私が投獄されたのです、薬を作った貴女が狙われる可能性があると思い、私にも責任があるのでお守りに来ました」


「お前のせいでお師匠様が危険な目に合うってことか!」




 ユーリが立ち上がり、今にもディランに掴みかかりそうになるのを必死で押しとどめる。




「ええと、事情は分かりました。でも守ってもらわなくても大丈夫です」


「しかし、相手は帝国の神殿ですよ?あなたが思っている以上に力も人手もある」


「この場所は私の魔法で悪意や害意がある者は近づけないように結界を張っているのです。ここまでは来れないかと」


「なるほど。でも、あなたが薬を卸している店もある」


「確かに・・・そこは気になりますが、ここは帝国領ではないですし、神殿?の教えが布教されている地域でもないかと思うので、影響は少ないかと」


「・・・聡明な方だ」




 帝国と言うのはここからかなり離れた場所にあり、帝国の神官が布教に来ているといった話は聞いたことがない。


 街でも村でも魔女が異端であるという考え方はなく、既に定着もしている。


 ディランの話を聞くに神殿そのものというよりかは一人の神官だけの問題のようなので、そこまで大人数を動かしているとは考えにくい。


 危険はないとは判断できるだけの材料はある。




「むしろ、私をと言うより逃げてきたあなたを捕まえに来る方が確率が高いと思うのですが」


「まあそういう考え方もありますね」


「出ていけ!!」




 とうとうユーリが立ち上がってディランの胸元をつかんでしまった。




「お師匠様は大事な人だ。村人にも慕われている。お前のせいで危険な目にあうなんて許せない」


「私だって不本意だ。魔女殿には世話になったし、既に見限ったとはいえ一度は主を助けてもらった恩人だ」


「だったら何で来た。お前が来たせいで」


「何も伝えずに私が他の場所に逃げたとしても、ここに追手が来る可能性がある。黙って逃げるよりかは事実を伝え方がいいと思って」


「じゃあ話は聞いた。お師匠様は僕が守るから、お前はさっさとどこへでも逃げるがいい」




 今にも取っ組み合いになりそうな雰囲気に私は慌てて割って入る。


 昔は無口で自己主張が苦手だったユーリが言いたいことを言って喧嘩までできるようになったなんて成長を感じるなぁと明後日の方向に逃避しそうになったが、何とか二人を引きはがすことに成功した。




「ユーリ!やめなさい!喧嘩はいけません」


「だって、コイツが」


「ディランさん?もやめてください。ユーリが言うようにお話は分かりましたから、どうぞ気にせず逃げてください」


「ディランで結構です。さんづけなど堅苦しいのはやめてください。逃げると言っても行く当てもありませんし、ご自身で身を守れると言っても人手がいた方がいいでしょう?私はそれなりに腕に自信はありますよ?」




 なんというか話を聞かないタイプの人だなディラン。


 にこにことして朗らかな雰囲気を醸し出しているが、自分の考えは曲げないという意志の強さをバシバシと感じる。




「いいえ、結構です。ユーリも嫌がってますし」


「私より、その少年の方が信用できると?」


「少なくともユーリは私の大切な家族です。その家族が嫌がっているのにあなたを受け入れる事はできません」


「ふむ」




 ディランは何かを考えるように首を傾げていたが、すぐに優しげな微笑を浮かべる。




「それでは私はあの村に滞在することにしましょう」


「は?」


「帝国がここまで来る可能性は低い。けれどもゼロとは言い難い。貴女への手出しが不可能でも村にはちょっかいを出すかもしれません。村人たちへの護衛という事で村でしばらく暮らすことにします」


「そんな勝手な!!」




 ユーリがまた吠えている。


 うちの子がカリカリするからいい加減にやめてほしいが、話を聞いてくれる気はなさそうだ。




「ここは魔女殿の棲家なので私が勝手に居つくことはできませんが、村であれば私が滞在するのは自由でしょう?」


「まあ、それなら」


「お師匠様!」


「村に迷惑がかからないようにしますし、護衛とは気が付かれないように仕事もしようとおもいます」


「はぁ」


「生きていくのにはお金も大事ですからね」




 そういってじゃらりと布袋を揺らすディラン。たぶんそれなりの蓄えはありそうな顔だ。




「出てけ!」


「どこに住むかは私の自由でしょう?」


「お師匠様の迷惑になる」


「私はご迷惑ですか?」


「迷惑と言うか・・・」


「迷惑だ!!」




 いがみ合う二人に挟まれ、何でこんなことになったのかと私は頭を抱えた。


 ディランが聖騎士であるという事がこの先、果てしなく面倒くさい事態を呼びそうな予感しかしない。


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