0002_努力の本質
■アマネ
ふう、疲れた。
■シン
今は、何の研究をしているんですか。
■アマネ
いや、研究の為の学習をしていたところだ。
専門ではないし、独学は大変だな。
■シン
よくそんなに努力できますね。
挫ける事とかあります?
■アマネ
挫ける?
■シン
努力が報われないと辛くなるでしょう。
■アマネ
ふむ、まあそれはそうだろうが……。
■シン
何か?
■アマネ
そうだなあ。
■アマネ
返報性原理が関係しているのかどうか判らないが、
苦痛や損害に対しては、無条件でそれを補填するなり元より良い状態になるような何かが返ってくるべきだ、
と云う考えが根付いているように思う訳だよ。
■シン
まあ、そうじゃないとやってられないでしょう。
■アマネ
気分的にはそうだろう。
だが、因果的に考えれば、そんな風にはなっていない。
返報性原理の内容はやはり願望であって、
自然法則として成立している訳ではない。
■アマネ
例えば、原理とか詳細は知らないが、筋肉の超回復と云うものがあるらしい。
筋肉を痛めつけると、回復時により強くなるらしい。
そうであれば、筋肉を痛めつけると云うトレーニングは有効であろう。
■アマネ
だが、例えば転んで怪我をしたからって、腹が膨れたりはしない。
ある主観的辛さがあったからと云って、打算的な利益が返ってくると云う事は必ずしも成立しない。
■シン
それは、まあ……。
■アマネ
だから、努力と云うまあ辛いものに対して、「報われる」と云う表現が使われるのが、
そもそもそうした態度から出ているのかなとふと思ったのだ。
努力と云う辛い事をしたのだから、これは報われるべきだ、と云う風に考えてしまっているのだろうか、と。
■アマネ
そして、もしそう考えていたら、
確かに報われないと、ただ苦痛なだけだから辛かろうし嫌だろう。
■シン
そうですね。
■アマネ
だが努力とは、本質的にはそういうものではない。
宝くじと同じで、買って当たる訳じゃないが、買わなきゃ当たらないと云うだけのものだ。
頑張ったからって成果が出る訳ではないが、頑張らねば成果が出ないから、成果を望むならやるしかないのだ。
■シン
うーん、まあ判りますけど……。
■アマネ
努力と云うのは、臨んだ成果を実現する為の過程なのだから、実現するべくして行動していかねばならないし、
成果が実現する事が目的なのだから、成果が出なかったら、辛いのは勿論だが、改善をし、再度成果を目指さねばならない。
何しろ、そうしなくては成果は手に入らないからだ。
■アマネ
だから、苦労したのに報われない、と云う表現は、実はおかしなものであろう。
苦労したと云う事と、それを補填する何かが必ず返ってくると云う、そんな因果関係はない。
そうであってくれなきゃ割に合わないと云う心理、主観があるだけで、客観事実ではない。
■シン
成程……。
■アマネ
そもそも、大抵の場合、努力には苦労が確かに伴うだろうが、
そこは別に努力の本質ではない。
■シン
本質、ですか?
■アマネ
うむ。
努力の本質は、成果の実現にある。
大変さは付随しているだけで、成果が出るなら別に大変じゃなくて良い。
だから効率化などは、どんどん図った方が良い訳だな。
■シン
まあ、確かに。
■アマネ
にもかかわらず、そのたまたまの付随物にばかり注目して、報われるべきと云う願望を突き合わせて、
それが達成されないと云って嘆くと云うのは、
もう全く、成果実現と云う本質と無関係な話が展開されてしまっているのだ。
■アマネ
だからそれでは、確かに心が辛くなるだろう。
ただでさえ努力として苦労をしているのに、報われないと云う無関係な辛さまで背負い込んでは、苦しむ一方だ。
■シン
ううん……。
■アマネ
であれば、だ。
報われるべきだと考えると、報われなくて辛いのだから、
端からそんな無関係なもの期待しない方が良い、と云う事だ。
■アマネ
努力はそもそも、報われるとかそういうものじゃない。
成果実現の為の過程でしかないのだから、大変だろうし辛かろうが、
それでも工夫しながら、努力を続ける以外に方法はない。
■アマネ
だから、報われるかどうかと云う全く無関係な話は無視して、
どうしたら成果が出るかだけを考えて行動した方が良い。
宝くじと違って、成果実現は工夫ができるからな。
■アマネ
そしてその工夫もまた努力な訳だ。
何しろ、成果を出す為の工夫を、努力と呼ぶのだから。
そこに苦しさは関係ないので、無視したまえ。
■アマネ
割に合うも合わないもないのだ。
成果が出るかどうか、ただそれだけなのだよ。
望むべきは成果それ自体だ。
だから、成果以外は気にするな。
■アマネ
そして、そうしたメンタルケアも引っ括めて努力であろう。
それらは結局、成果を実現する為の過程なのだから。
■アマネ
そんな訳で、私も何とか自分をコントロールして、騙し騙しやっていっているのだよ。
生来私は怠惰なもんで、随分苦労しているのだ。
その割には全然成長できないし、確かにやってられないけれど、
まあやるしかないので、時間は掛かっても、やれる時にぼちぼちやっている感じだな。
■アマネ
成果達成の為には全く足りていないのだけれど、
私と云う貧弱で無能で劣等な人間には、首尾良く頑張る事さえ中中できないのだ。
だがそれでもやらねばならないので、何とか自分と向き合いながら挑んでいる。
途中までしか進まない事は、まるで進まないのとは違うしな、死ぬまでにちょっとでも進んでいればまあ良いやと云う風に自分を誤魔化しながら乗りこなそうとしているのだよ。
情けない話だがね。
■アマネ
まあ、やるしかないのだから、やるしかない訳だな。
■シン
うーん、でもそんな簡単に割り切れないですよ。
■アマネ
それはそうだろう。
そうした方が良いと云う事実は、中中できないと云う主観と無関係だからな。
■アマネ
だが、できないと云う主観・自己都合は、そうした方が良いと云う事実と無関係なので、
やはり、どうにかやるしかないのだ。
■アマネ
成果が出さえすれば、何でも良い。
だから、余計な辛さは排除して、何とか頑張っていこうじゃないか。
■アマネ
疲れたら休めば良い。
飽きたなら気分転換すれば良い。
だがいつかは戻ってきて、また努力をするのだ。
そうすれば理想が実現できて楽園に到れるのだしな。
■アマネ
辛さなど、気にしても辛いから、もう気にしない方が良いのだ。
割り切るのは大変だろうがね、とにかく気にしない方が良い。
開き直って、泥臭く行こうじゃないか。
いつか達成できるさと信じてな。
■シン
努力って、大変だなあ……。
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