可能世界の空理空論

哲学サークルDreal

0001_トーラス世界の時空の歪み


■アマネ

君、

ゲーム世界は地球のような球体ではなく、トーラスなのではないか、と云う説を、

聞いた事があるかね。


■シン

なんです、藪から棒に。


■アマネ

いいや、壁から釘だ。


■シン

いいから早く本題を話してください。


■アマネ

テレビゲームなんかで、

飛行機や船のような乗物を使って、世界中を回れるようなものがあるだろう。

例えば次のような世界地図があるとしよう。


■アマネ

ここで、飛行機が地図の上端に移動したとする。

すると、地図の真直ぐ下の下端から現れる。


■アマネ

ちなみに右端に移動すると、左端から現れる。


■シン

ああ、よくありますね。


■アマネ

で、こんな動きは、世界が球体では不可能なのだ。


■シン

え、そうなんですか?


■アマネ

例えば地球のような球体だったら、どの位置からでも真直ぐ北へ向かえば、必ず北極点に到達するだろう。

そしていわば地球の裏側を通って南極点へ向かい、そうしてまた下から現れる。

四角形の地図でその動きを簡単に表すなら、こういう動きになるはずだ。


■シン

ああ、確かに……。


■アマネ

ではゲーム世界の動きが可能となるのはどんな世界かと云えば、

それがトーラスなのだ。


■シン

トーラスって何ですか?


■アマネ

まあ簡単に云えば、輪っかだと思えば良い。

こんな形だな。


■シン

はあ……。


■アマネ

ゆっくり考えていこう。


■アマネ

まず、どの地点からでも、上へ進めばすぐ下から出てくると云う事は、

上端と下端は全く貼り合わせのような状態になっていると云う事だ。

だから、上端と下端を張り合わせた筒状になる。


■シン

成程。


■アマネ

そして、右端と左端も同様に繋がるので、

ほら、輪っかになっただろう。


■シン

ああ、本当だ。


■アマネ

だから、こうした世界なのであれば、ゲーム世界の動きは説明できる。

そんな訳で、ゲーム世界は実はトーラスなのではないか、と云う説が唱えられたのだよ。


■シン

ううん、頭良いですね……。


■アマネ

で、ここからが本題なのだが、

このトーラス世界についてちょっと気になった事があるのだ。


■シン

はあ、何ですか?


■アマネ

端的に云えば、世界がトーラスであるのに加えて、

時空も歪んでいるのかもしれない、と云う事だ。


■シン

時空が歪んで……?


■アマネ

また四角形の地図で見てみよう。


■アマネ

まず飛行機が、上端を左から右へ進むとし、その移動に要する時間が10秒だったとしよう。


■アマネ

そしてこれは、地図の中央、赤道のような箇所に於いても同様なのだ。


■アマネ

さて、世界がトーラスなのであれば、

繋げ方にも依るが、上端はトーラスの内側、内径となり、

そして赤道部は、トーラスの外側、外径となる。


■アマネ

内径と外径では、普通に考えれば長さが異なる。

内径の方が外径よりも短いはずだ。


■シン

ああ、確かに。


■アマネ

にもかかわらず、移動に要する時間は同じなのだ。


■アマネ

移動の速さと所要時間が同じで、しかし距離が違うと云うのは、普通はあり得ない。


■アマネ

それを可能とするには、

端的に云えば時空が歪んでいる必要があるのではないか、

と云う事が気になったのだ。


■シン

はあ……色色な事を考えますね。


■アマネ

これでも哲学者なのでな。

しかし私は、科学は苦手なのだ。


■シン

そうなんですか?


■アマネ

具体的なものに興味がないものでな。


■アマネ

汎ゆる可能世界の本質には興味があるから、トーラス世界の時空の歪みなどにも興味がある。

しかし、その特定の世界が実際にどうなっているかと云う詳細部には、どうも興味が出ないのだ。


■シン

余り役に立たないですね。


■アマネ

なんちゅう云い草かね。

まあ、とにかくそんな訳で。


■アマネ

ゲーム的トーラス世界が、簡単に時空が歪んでいるとかそういう結論で良いのか判らないし、時空が歪んでいたら何なのかと云うのも判らない。

不思議だなー、くらいのもので。


■シン

はあ。


■アマネ

誰か詳しい人が教えてくれたらありがたいものだ。

いかんせんウチには、可能世界レベルでの空理空論にしか興味無い者ばかりでな。


■シン

本当に役に立たないですね、哲学者って。


■アマネ

何を云う。

私が個人的に役に立たないだけだ。


■シン

威張らないでください。

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