第137話:虚ろな目

 地面に転がる、大きな金槌。

 大工道具が落ちていたのは、これで三つ目だ。


 どこから落ちたのか。


『ボク早カッタ?』

「……早かった」

『ワーイ♪』


 アスが全速力で引っ張った荷車からだ。

 まさかあんなスピードで走れるとは思ってなかったから、落下防止対策してなかったんだよなぁ。


 あと、荷車の車輪も取れかかっている。

 耐え切れなかったようだ。

 なんとか海岸の作業場までもってよかったよ。


 にしても、


「あんだけのスピードで走れるなら、今の村の中じゃ狭いのかなぁ」

「まぁあの速度で走り回れるスペースはないわねぇ」


 アスも成長した。

 最初に成長させた直から比べると、ほんの少し大きくなったようにも見える。

 ツリーハウス、手狭になってないだろうか。

 もっとたくさん走れる場所が必要なんじゃないだろうか。


 そんなことを考えていたら、なぜだか寂しくなった。


『ドウシタノ、ユタカオ兄チャン』

「ん……ちょっとな」


 寂しくなって、アスをぎゅっと抱きしめた。


「暑い」

『ボク、ポカポカダカラ』


 走って火照ってるわけじゃなく、普通に平熱が高いんだよなぁ。


「ワームと子竜のおかげで、馬で来るよか早くついたな。ありがとうよ」

『エヘヘ』

『褒められたぁ。わーい』

「うーん。子竜の言葉はわかるが、ワームのはわかんねぇなぁ」

「褒められて喜んでるよ」

「おぉ、そうかそうか。褒められると喜ぶなんざ、人間の子供と同じだな」


 でもそいつ、出産してるんだぜ。

 とはいえ、俺たちもユユたちのことを大人としては見ていないかも。

 やっぱり子供っぽいんだよなぁ、言動とか。


「それじゃ旦那、木材をあっちに並べてくれねぇか」

「了解。お前たち、手伝ってくれ」

『ハーイ』

『お手伝い♪』


 子供っぽいけど、そのパワーは人間の大人を遥かに凌駕している。

 丸太だって余裕で持ち上げられるしな。


 アスは両手で抱えて、ワームたちは尾を巻き付けて持ち運ぶ。

 丸太はインベントリから出して、綺麗に並べるのはさすがに人力……ならぬドラワーム力だ。


「とりあえずこんなもんかな?」

『カナ』

『かなぁ』


 二種類の丸太を、それぞれ百本ずつ取り出した。

 あまり高く積み上げすぎると、職人さんが下ろすとき大変だからな。五段積みまでにしてある。

 その分、広い範囲が丸太だらけになってしまったけれど。


 港建設地にあったのは、作業場だけじゃない。

 平屋が一軒建っている。


「家がある!?」

「あぁ、俺らの寝床だ」


 中を見せてもらうと、二段ベッドが十個並び、長机と長椅子が置いてあるだけの簡素な内装だ。

 まぁ寝泊まりするだけなら、これで十分なんだろう。


「食事はどこで作られるのですか?」

「あぁ、飯はほれ、そこに竈を作ってっから」


 平屋の横に竈があった。鍋を置ける竈と、パンとかピザが焼けそうなものとある。

 もう一軒、隣に同じような平屋が建設中だ。

 これが完成したら、町で人を雇って働いてもらうらしい。

 それでようやく、本格的な港の建設が始まる。


「楽しみだなぁ」

「他の国から、大きな船がくるようになるのよね」

「不思議です。私たちはつい最近まで、砂漠以外のことなんて何も知らなかったのに」

「ほんと……。町にだって来ることなんてないと思ってた。ううん、町のことなんて頭になかったわ。自分たちのことで精いっぱいだったから」

「だけど、ユタカさんが来てから世界が広がりました。世界にはこんなにもたくさんの人がいて、たくさんのものがある。それを教えてくれたのはユタカさん、あなたです」


 二人にじっと見つめられ、なんだか照れくさくなった。

 二人の後ろの方でニヤァっと笑う大工のおっちゃんたちを見たら、一気にしらふになったけど。






「バフォおじさん、大丈夫かなぁ」

「おじさんが心配なの?」

「そりゃ心配さ」


 丸太の補充をしたあと、そのまま馬車を一台借りて水没神殿へ向かった。

 馬車を引いているのはルルとリリだ。

 アスが『ボクガァ』と言ったが、丁寧にお断りした。

 アスが引いたら絶対落ちる。もしくは酔う。

 それでユユに頼んで、二人で競争してもらうことに。


 結果は五分五分。

 あんまり先に行き過ぎると危ないから、「あの岩まで競争」「あの木まで」と何回かに分けて勝負してもらったが、偶数回数だったのもあって三勝三敗の結果に。


『ムゥ。ユユニ勝テナイィ』

『ボクもう疲れたぁ』

「お疲れさん。神殿に到着したし、二人は日陰で休んでろよ。ほら、そこにでっかい日陰がある」

『主よ、我を日除け扱いにするな』

「よ、フレイ。バフォおじさんは?」


 湖畔にフレイがいた。

 神殿へと渡る橋の上で、冒険者がフレイを見ないようにして渡っていた。


『奴ならば神殿の方にいるぞ』

「入ったのかよ……」


 冒険者に獲物と間違えられてないだろうなぁ。

 さすがに町の人だと喋るヤギじゃ通用しないだろうし。


 中に入ってみるか。


「お、ユタカじゃねえか。仕事は終わったのか?」

「え、バフォおじさん!?」


 神殿に行こうとした矢先、バフォおじさんの声がして振り向くと、数人の冒険者に囲まれたおじさんがいた。

 気のせいか、周りの冒険者の目が……目が虚ろだ。

 何やったんだよバフォおじさん!?


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