チャリパイ番外編
夏目 漱一郎
第1話国家組織に立ち向かえ!
東京、新宿の中心から少し外れた場所にある小さな探偵事務所…
『森永探偵事務所』
エージェントの一人である『てぃーだ』が、眉をひそめて言った。
「ねぇ…最近、シチローの様子がおかしくない?」
『シチロー』とは、この森永探偵事務所を経営している探偵……つまり、エージェント達の雇い主である。
同じくエージェントの『子豚』も、シチローの異変に気付いていた。
「そういえば、何かやたらと周りを気にしてるみたい…」
すると、三人目のエージェントである『ひろき』が、意を決して衝撃の事実を激白した!
「アタシ見ちゃったの!シチローが、血まみれのシャツ着てるところ!」
「それってまさか!殺人事件の犯人!」
心配になった3人は、シチローを捕まえて、挙動不審の理由を問い詰めた!
「そうか…知らない間に『挙動不審』になってたんだ…
詳しくは話せないけど、実はアルファベット3文字の国家組織に目を付けられていてね…監視されてやしないかと、気になって…」
どことなく深刻そうな表情でそんな事を呟くと、シチローは溜め息を一つついて、部屋を出て行った。
シチローが居なくなり、再び3人だけになると、てぃーだが心配そうに呟いた。
「ねぇ、今のあの話って、『CIA』の事よね?」
CIA……云わずと知れた、米国政府直轄の秘密諜報機関の略称である。
「アルファベット3文字の国家組織だもんね!」
「シチローが、CIAに命を狙われてるって事?」
「いったい、何やったんだろ?シチロー…」
「小説で大統領の悪口書いたとか!」
日本の探偵が何故CIAに狙われなければならないのか、三人のエージェントには見当も付かなかったが、とにかくこれは放ってはおけない。、
「ねえ、そいつらアタシ達でやっつけちゃおうか」
てぃーだの強気な発言に、子豚とひろきが興味深そうに食いついた。
「なんか面白そうね」
「映画みたいでカッコイイ~アタシ達!」
なかなか、頼りになるエージェント達である…
数日後……窓の外を見ていた子豚が、手招きをして2人を呼んだ。
「ティダ!ひろき!いたいた、怪しい男が」
外へ出てみると、事務所の周りを怪しい中年の男が、ウロウロと歩き回っている。
「あれ、日本人じゃないの…それにオヤジだし…」
「トム・クルーズじゃないのか~ガッカリ!」
「あの風貌は、どっちかっていうと『竹中直人』ね」
CIAと言えば、当然アメリカ人だと思っていた子豚とひろきは、あれが本当にCIAなのかと首を傾げる。
しかし、てぃーだは冷静に分析して言った。
「いえ…あれは『日系人』のベテランエージェントよ!怪しまれない為に敢えて日系人を使うなんて、さすがはCIAだわ…」
「なるほどね…じゃあ、誰から行く?」
「じゃあ~最初はあたしに任せてよ」
最初に手を挙げたのは、ひろきだった。ひろきは両手いっぱいに花束を持って、その男に近付いていった…
「花束なんか抱えて、どうするつもりなのかしら?」
離れた場所からひろきの様子を見守るてぃーだと子豚は、首を傾げていた。
「オジサンお花を買って下さいな」
満面の笑顔で男に花を勧めるひろき。だが、男は素っ気なく言った。
「悪いな オジサン今、仕事中なんだ…」
「うぅ…このお花を全部売ってしまわないと、あたし家に帰れないの!家には病気の弟が独りきりで、アタシの帰りを待って……」
勿論、全部嘘である…ひろきは不幸な少女を演じ、男の同情を引こうとした。
「何も泣かなくても!わかったよ!買えばいいんだろ!」
男は、目の前で泣き喚くひろきの姿に慌て、ポケットから財布を出す。
「ありがとうこれ、全部サービスね」
ドサッ
その様子を見ていたてぃーだと子豚が感心するように頷いた。
「なるほど!男の両手を塞ぐ訳ね」
「その隙をついて攻撃する作戦ね…やるぅひろき」
そのひろきは得意げに言い放った!
「アハッ
いい大人が、『両手いっぱいの花束』なんか持って恥ずかしいでしょ!
名付けて『いいオヤジが、花束なんか持って恥ずかしい攻撃』」
「それで終わりかよっ!」
♢♢♢
「何よあれ!全然ダメージ与えて無いじゃない!」
「いや……精神的なダメージが……」
ひろきのそんな主張を、子豚が呆れ顔で否定する。
「何が精神的なダメージよっ!オヤジ、癒やされちゃってるわよ……」
確かに男、少し嬉しそう……
二番手…子豚
「次は私ね
実は私『超能力』が使えるの」
「超能力!それはスゴイ!期待出来る」
思いもよらない特殊能力を持つ子豚。果たしてどんな攻撃を見せてくれるのか?
「見せてあげるわえいっ!」
ポタ…
「え?今、何したの?」
「フッフッフッ…頭の上に鳥のフン落としてやったわ」
「そんなもん落としてどうすんだっ!」
すかさず、てぃーだとひろきのツッコミが飛ぶ。
「コブちゃん、もっと凄い物落とせないの?車とか…」
「う~ん…あまり重い物はちょっと…『金タライ』位なら…」
「ドリフのコントかっ!」
子豚自慢の超能力も、ここではあまり役に立たなかったようである……
「やっぱり、アタシが行くわ!」
そう言い放つと、てぃーだは、男の方に向かって猛然と走っていった!
『エンゼルキーック!』
「おおっ!まともだ!」
琉球空手で鍛えたてぃーだの跳び蹴りは、見事に男の顎を捉えた!
「うぎゃあ!」
道端に倒れている、男の襟首を掴み上下に揺すって、てぃーだは男に尋問する。
「さあ!白状しなさい!CIAがどうして、シチローを狙ってるの!」
しかし、男はとぼけているのか、何を言っているんだという顔をしていた。
「何の事だ?」
そんな男に、子豚とひろきも強い口調で詰め寄る。
「とぼけないでよ!アンタがCIAだって事はとっくにわかっているのよ!」
「CIA?
……私は、『NHK』の者ですけど……滞納してる受信料の回収に……」
「え・・・・・・?」
「NHKって…『日本放送協会』の?」
「そうです。『紅白歌合戦』のNHKですが…」
「アルファベット3文字の国家組織って『NHK』の事だったのか~!」
「じゃあ…ひろきが見たっていうあの『血まみれのシャツ』は、一体何なの…?」
♢♢♢
その頃シチローは…
ゴシゴシ…
「ああ~っ!落ちねぇなあ~このトマトジュースの染み!…お気に入りのシャツなのに…」
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