第四話 物語
「こりゃ
敦や賢治だけでなく、武装探偵社の社員たちは基本的に怪我人を出さないことを最優先とする。
それはもちろん人道的な理由が一番であるのだが、次に、怪我をさせた
「……まァ、倉庫が潰れて、銃火器と違法薬物が全部駄目になってるだけだね」
乱歩は、そう云う与謝野の後ろを歩きながら、湿った海の匂いと焦げた倉庫の
「何か分かったかい」
与謝野が振り返って尋ねるが――。
「僕は何も云わないよ」
乱歩はまだ機嫌が悪いのか、青と白の混ざった空を見上げて吐き捨てる。
「僕は社長に怒られないで、明日一緒に遊園地に行ければいいの。チュロスとポップコーン、全種類食べられればいいの。こんなつまんないこと、与謝野さんたちで勝手にやっててよ」
「そうかい」
こうなってしまった乱歩は、福沢以外には誰にも、どうしようもない。
与謝野は倉庫が潰れていることしか分からないままで、歩き続けるほかない――。
「ん」
与謝野の携帯電話が鳴っている。
二つ折りのそれを開くと、『田山花袋』の名前があった。
通話釦を押すと、受話口を耳に当てる前からわあわあと何か言っている声が聞こえる。
『大変じゃっ! 与謝野さん、大変なんじゃ!』
「どうしたんだい、花袋さん」
女性と話すのが不得意な花袋は、与謝野と話す時も落ち着きが無い。
「ゴミの中の
『違うんじゃ! 違う!』
「あァ?」
――本当に、何か違うようだ。
『敦君の消失現場周辺の防犯カメラの映像が急に途切れたんじゃ! 国木田と太宰が映った瞬間に!』
あの二人なら、何があっても死にはしないだろうが――。
「変だねェ……」
乱歩にちらりと目を遣ると、彼は顔を顰めたままで、聞き耳を立てている。
『
花袋の異能力『蒲団』は今、視界内の電子機器だけでなく、視界内の電子機器に有線または無線で接続された、半径五
『だが国木田と太宰に連絡が通じん! ……あれ、復旧……でも――うぎゃあああああああああああああ!?』
「花袋さん?」
――電話は切れている。
花袋の絶叫を左耳の奥に残したまま、与謝野は振り返る。
「……どうする、乱歩さん」
「谷崎、賢治、鏡花ちゃんに連絡しても意味無いよ。あっちも大変だから」
乱歩は、港の
「助けるってんなら、まあ、花袋さんが先かな。ヘタレだし」
「分かったよ」
与謝野は、そんな乱歩の言葉を信じるしかない。
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