七、蒼湖

 蒼い。その一言に尽きる。

 カルデラ、なのだろう。とにかくこの山の頂上には湖があった。

 湖の真ん中に真っ白な船が浮かんでいる。

 人影は見当たらない。誰かが湖の真ん中に浮かべたかのように、水面の上に浮いていた。

 湖の周りには白樺が立ち並んでいる。季節柄かすっかり葉を落とし、枝のシルエットが空に映えていた。水面には落ち葉ひとつ落ちておらず、水は透き通り底まで見渡せそうだ。風もないので、鏡のように静かだ。

 まさか本当に鏡なのではないだろうか

 と、そっと水面に触れる。

 ひやりと包み込むような冷感と指先から生まれた波紋が、確かにそれが水であると証明していた。

 そっと口に含みたくなる衝動と、生水を飲むことへの抵抗がしばし争い、白湯にして飲むという結論に至る。水晶のような冷たさが失われてしまうのは残念なことだけれども。

 白湯を口に含み、口の中で転がす。気温のせいか、それとも冷たく静かな風景のせいだろうか?熱が身体に心地よく染みる。白湯の熱を感じながら、先程の冷たさを思い返すと、なんだかあの水に全身を浸したくなってくる。

 つま先から首まであの水に浸し、耳元でささやかに鳴る水音を聴いていられたらきっと素敵だろうと思う。

 そんなことを考えながら、波一つない湖と白い船を眺めながら白湯を楽しんだ。


 青空が赤に染まり黒に塗りつぶされるまで待ってみたが、持ち主らしい人物はついに現れなかった。

 そろそろ休まなければと、背を向けたときにささやかに水が鳴った。振り返ると水面の月が揺れている。

 還ったのかもしれない

 そう思った。

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