三、霧の町

 霧が濃い。一寸先も覚束かない。

 カツカツと硬く響く靴の音から、足元は石畳だろうと思うのだが、それすらも曖昧だ。

 霧は水だ。

 そんな当たり前のことを考えるほどにこの町の霧はひやりとしている。抵抗のない水中を歩いている気分だ。

 建物はあるのだろうが全く見えない。何者ともすれ違わない通りには街灯が立ち並ぶ。すっと背筋を伸ばして立つ様は外套を着た紳士のようだ。

 まだ夜には遠い時間だが、昼というには暗すぎる。だからだろう、紳士達は頭を煌煌とさせてこの霧の町を照らしており、お陰でどうにか歩いていられる。

 陽光の射さない代わりに点々と人工の光が束の間の陽だまりを作る。本物と違ってぬくもりのない陽だまりは、冷たい霧に覆われ沈黙するこの町に相応しかった。

 光が水滴で広がり虹のようになっている。

 点々と並ぶ滲んだ光に見惚れながら歩いていると、靴底が石畳を上滑りし

 「……痛ぅ」

 濡れた石は非常に滑りやすく、硬かった。

 「だいじょうぶですか」

 案じる声に振り返ったが、霧が広がるばかりで声の主が居たのかさえも判然としなかった。

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