一、蝶咲く旅路
住宅街とは、旅には向いていない地だ。なにしろ生活の礎として最適化され閉ざされており、異邦人を迎えるようにはできていない。それどころか頑なな拒絶の意思さえも見せている。
わたしのような者にとって、足が怯える場所だ。
しかしながら、ここはわたしの旅の始まりであり、始まらない旅に終わりはあり得ない。怯えを飲み込んで一歩を踏み出すこととしよう。
異邦人として訪ねてみると、住宅街はとても不思議な所だ。住宅街、住居が集まった地域、人の営みが集まった場所、賑やかで人々の生活が呼吸を通して伝わってくる。同時に閑静で生き物の気配すらないような、ともすれば夜よりも孤独を感じるような空気も持ち合わせている。ここはそんなごく一般的なのどかな住宅街だ。
靴音は壁にぶつかりながら青空へと飛翔する。
昼下がりだからなのか、家の多さに反して、人影はない。ただ歩くわたしの靴音を塀や壁が跳ね返し空へ放っていく。
漆喰、だろうか?この住宅街は柔らかい白色の一軒家が多く、道全体が白っぽい印象がある。ただし、ほとんどの家が花を植えていて色とりどりの沢山の花が咲いており、殺風景な印象はあまりない。壁掛けられた鉢植えや、下に置かれたプランターから零れんばかりに咲き誇る花たちのために、住宅そのものの色味は簡素なのかもしれない。
おや、変わった花がある……いや、花ではなく蝶だった。黄揚羽が咲いている。
黄揚羽は、ふつりと茎から離れ青色へと飛翔していった。
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