第10話 ゴミ屋敷周辺

畠山 里香



「ああ……あれね……」

「そのようだね……」


 畠山 勇は私の父で探偵だった頃の先輩だった。

 今日も私と同じく眠い目を擦って訪れた。


 勇は大の夜型人間で、いつも朝は大量の缶コーヒーを飲んでいた。

  

「またいつもの缶コーヒー……」

「ああ……」


 依頼にあった問題のゴミ屋敷が目の前にあった。

 少しだけの悪臭が鼻につく。

 私たちは、ここで事件の全容を少しでも早く知ろうとしていた。


 ここで……。

 悪夢は始まった……。



「もう二件新たにでたんだよ……」

「これじゃ、都市伝説にもなるわね……」

「ああ……」


 勇は缶コーヒーを何度も片手で振っていた。

 目はまん丸としていて、顔と肩も丸い。体だけは尖ったようなひょろ長い父だった。

 そんな父のよく見かける仕草だ。

 そうすると、コーヒーの味に何か変化が起こるのだろうか?


「ここは事故物件だったし、買い手を探すのも一苦労だったろうね。まあ、良い町だから買い手も出たようだけど」

「そうね。でも、不可解過ぎない?」

「そうだね」

「もう十件よ」

「うーん……そうだね」


 二件の遺体の写真が、また新しく町にばらまかれたようだ。

 勇は今朝に二件とも遺体の写真が郵便箱に入っていたと言った。

 私の方には事務所の郵便箱には何もなかったはずだ。

 それと、勇が言うには遺体の損傷はやはり酷かったようだ。

 

 この怪事件は一体いつまで続くのだろうか?


 遺体となった人達は、この周辺。つまりは町の人だったのだ。

 何故、どうやって、そして、何のために……。

 疑問は尽きないのだ。


 犯人は本当に人間なのだろうか?

 

「あ、犯人は目星がついてきたんだ。徐々に警察と私たちが黒だと候補している人たちから、除外したり、目途をつけたりしていたんだよ」


 勇は意外なことを言った。


「え! ……父さん?……それって……この……」

「そう、この町の人だったんだ。全員ね……。その人達は、まだ犯人かは定かではないけれどもね」


 缶コーヒーを煽る父。勇の顔は、どことなく青白かった。

 私もそうなのだろう。

 青白い顔をしているはずだった。


 でも、私にはこの仕事はやっぱり向いてないだろう……。時には素晴らしい好転をすることもあるが……。


 この怪事件も事件解決の糸口が父によって見えてきたようだ。

 

「除去法というものの考えをしていくと、私の中では一人の男性が浮かび上がったんだ」


 勇はあっという間に空になった缶コーヒーを道路の脇に投げ捨てた。


「その人は、交換レンズとSLRビューファインダーを備えた超小型電子カメラ製作に長く携わっていた男性で、名前は、えーっと……西村 研次郎だ」


 一瞬、私は父が何を言っているのかと、首をかしげた。


 犯人……?

 西村 研次郎……?


 え……?

 今、なんて?

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