第153話 許せない心

数日ぶりに帰宅した夫。

まったく悪びれる訳でもなく、夕飯のおかわりをする。

勿論、私も普通に過ごす夜。

心の中は…。。。

夫は、相変わらず娘達へのボディータッチを強行突破し、娘達との心の距離は深まるばかり。


今朝、月に一度の「儲けまっせ医療セミナー(仮)」に参加する為、駅に送れと。

この数分が、私にとっては地獄。

私の小さなミニカーで、ひたすら説教をする夫。


昨夜、自習室で勉強し11時前に帰宅した長女の事が気に入らない様子。

夜の11時、軽い夕飯を用意して、私はお茶を片手にダイニングテーブルへ。

ほんの10分程度だろうか?

長女が、話しながら食べるのが許せない夫。

長女に「さっさと食え! しゃべるな! もっと危機感をもって勉強しろ!」

その後も監視をされながら軽食を終え、お風呂に向かうも…入浴中でさえ「早く出ろ!」と言いに行く始末。


そして今朝の車中「アイツのやる気は何だ! 何をちんならメシを食ってるんだ!怒」

「アイツは時間の使い方がおかしい! ワンコロ触って一生終わるつもりか!怒」

長女は、獣医学を大学で学んでいる。

長々と続く最高の怒り節に、、、私の顔は能面。

それでも、まだまだ続く説教。

「医者以外、野垂れ死ぬだけだ!」

流石に…ふざけるな!と思って、「生きていけますよ、普通に」と言う私。

「この生活ができるわけないだろう怒!」と激怒する夫。

この生活が出来なくても、限りない快適な暮らしがあるだろう…とサラリーマン家庭で普通に暮らしてきた私は思う。

「俺の家系は、医者だ! 医者にならなければ出ていけ。後二年だ! 後二年で家はない!」


そのころには、もう吐きそうなくらい嫌気が出して、「ここで降りて歩いてください」と。

このまま車ごと何処かにぶつかって、二人して消えるのがいいんじゃないかとさえ思えた。

勿論、そんな事はしない。


ただ、この男といて…昔御世話になった心療内科の先生がおっしゃった「貴方がおかしいのではない。こういう人といて様々な感情が出るのは普通の事で、貴方が普通だからそうなるのです」という言葉を御守りにしている。

先生は、勇気付ける為に言ってくださったのかもしれない。

それでも、この男と価値観が合う人になりたいと思わない。

この人といて、えっ!って思える価値観を持ち続けたい。

すれ違う人々を「B」「在」…部落や在日という単語の略らしい言葉を小声で分類する夫。


それが、どうした?

だから、なんな訳?

知ったこっちゃない。こっちこそ最大の怒だよと心の中で叫ぶ私。


自分で決められないものを非難するのは、人としてしてはならない当たり前の行為と私は思っている。

身体的な事、出生、沢山ある自分では決められない事柄。


誰とも歩幅も合わず、常に戦闘態勢で足早に駅に消えていく夫に、、、怒とも呆れとも言えぬ感情が溢れ、金、金、金…医者、医者、医者…この人どういう最期を迎えるのだろうと思う。

金も医者も手に入れて、それでも誰一人寄り付かない家で暮らす90歳を超えた義父と重なった。

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