第69話 父の日

昨日は、父の日だった。

娘二人から夫へ、ウィスキーの詰め合わせセットを。今年も私が用意したもの…㊙

昔は、娘達を連れてお買い物に行った時に選んでいたのだが、パパ活発覚以来…その行事はなくなった。


私にも父がいる。

もう80歳が守備範囲?という位の年齢ではあるが、元気に生活しているようだ。

父には、好物の鰻を送っておいた。

母から「美味しかったよ」とショートメールがあり、父も食べたのだろうと推測する。


私と父は、不思議な関係。

少なくとも、父は私の連絡先を知らない。

父は、人柄もよく見た目も年相応ながら少しばかり若々しい雰囲気で誰からも慕われる。

基本、穏やかで楽しいことだけに特化した人間のように思う。

ただ、正直…中身は良く分からない。

フワフワっと生きていて、何が本当で何が本当でないのか良く分からない人。それが、私の正直なところだろうか。


元々、小さい頃は父が大好きだったように記憶している。それが歳を重ねて〜思春期になり、距離は広がりに広がり…現在。


私が小学校6年生の時、同じ小学校に転校生がきた。元気で転校生ながら皆を率いるような、少し目立った存在だった男の子。

父の大学時代の女友達、その息子さんだった。

彼の母親、つまり父の友人K子さんは美人で、彼の母親らしく明るさの際立った女性だった。

我が家の三人と、K子さんと息子二人(一人は先程の転校生)は毎週のようにテニスをして楽しんだ。

時には、テニス後にランチをしたり、K子さんが遊びに来たり、楽しいひと時を共に過ごした。

ただK子さんは、母がいない日も父に会いに我が家に来た。

家の中にまで上がることはなかったが、子供ながらに不思議な気持ちで見ていたように思う。


月日は流れ、やがて彼ら二人が普通の関係でないことを周りが感づく事となり…そこから現在に至るまで、その関係は深い日も浅い日も、どちらかが亡くなる日まで続くのか、誰もわからない。

おそらく、父とK子さんは元々恋仲だったのか、付き合うことはなくても互いに好意を持っていたのか、息子さんが転校してきたその時から何かが始まっていたように思う。


互いに双方の家族が感づく中で、私と転校生のK子さん息子は、共に同じ学校に通った。

苦痛でしかない…彼は学年で常に目立つポジションに立ち、私に「昨日、お前の親父が俺の飯くったぞ、なんとかしろよ〜」等と言って、私も明るく返した。

まるで兄と妹のように…、その話題にギリギリ触れない線を楽しみながら、苦しみながら…地元の学校で何年も過ごした。


父は息子が欲しかったので、勿論その転校生とは血の繋がりはないにしろ、彼を自宅に招いては就職先などの話をしていた。

私は、父と彼の話している姿を見るのも苦痛で、すぐさま自室に入り、いなくなるまでじっと耐えていた。


私と父は、一度も学校の話も就職の話もしたことはない。

父は全く興味もなく、表現は難しいのだけれど…私は母の連れ子のような関係性といえば伝わりやすいかもしれない。実際は、勿論実子。

勿論、俗に言うイメージ連れ子なので、実際は素敵なステップファミリーは沢山いるのは熟知している。

私は何も父の事はわからない、そして彼も私の事は知らない、知ろうともしない。

仲が良いとか悪いとかも判断できないくらいの仲。


時折、夫と娘たちの方が仲が良いのではと思ったりする。

勿論DVはいけない事だし、人生を決めるなんてもってのほか。

ただし、互いを知っているという点においては、私と父を超えているだろう。


私が最後に父とK子さんを見たのは25歳の頃。

自宅を車で出た父が近くの公園に車を置き、横に停めてあるK子さんの車に乗り込み、二人で出かけていった。

偶然仕事仲間と居合わせた私は、とっさに同期の男の子に頼んで、「あれ、うちの父親なの! 後で説明するから追いかけて」と後から追跡した。

途中二人は気がついて見失ったが…あの時、この街を出ようと決意した。


母は父が大好きで、私は小学校のあの日々から25歳で街を出るまで、ずっと母は父の事で頭が一杯。

父がK子さんに会ったであろう日には早々と寝床で泣いて、目の前の私はあまり見えないようだった。


だから、私は娘達が父親のパパ活を見つけてきた時、全てを発きながら泣くこともなく、ただ淡々と事を進めた。

私の母が父を大好き過ぎて自分は辛かった分、私は同じ女性問題を前にして夫第一等、有り得ないと思った。

どちらが正しいかなんてわからない。

ただ娘たちには、ママが祖母みたいでなくて良かったとは頻繁に言われる。


私の父の事は、娘達にはずっと伏せてきたのだが、私の夫、つまり娘の父親のパパ活発覚で泣き崩れる娘達を前に、私から言える事は…「自分も同じ山にぶつかった、ただ…それは必ず登れる山でただの通過点。悩んで悩んでどん底に手をついたら、必ず上がってきなさい。大丈夫だから。」

位しか言ってあげられなかった。


私の父、彼女達の父。

それぞれの父。

世の中に沢山いる父。

血の繋がりがあるない関係ない父。

親子だけではない、存在としての父。

いろんな父。

父の日なので、ふと書いてみた「父」

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