第39話

「俺が塾を辞めます」


 これしかない。


「二度と彼女には近づきません」


 そうすれば父親も少しは納得してくれる。


「だからどうか、彼女の対人恐怖症が治るまで、この塾に居させてあげてください」


 彼女のために俺ができることはこれくらいだ。


「ここの講師は俺なんかよりも優秀です」


 塾長や先輩たちならきっと何とかしてくれる。


「だから、どうか……」


 どうか……。


「彼女が居たいと思える場所を、奪わないであげてください……!」


 俺は机にめり込むほど深く頭を下げた。隣に座る塾長も同様に懇願した。その真剣さに気圧されたのか、真鈴の父親は渋々ではあるが了承してくれた。


 そうして俺は僅か2か月強で塾講師を辞めた。真鈴の専属講師としては2か月ほどか。俺たちはたったそれだけの関係。その関係が終わったのは、少し遅い梅雨入りの時期だった。

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