のじゃロリだあああ!


「なんじゃここは……。貴様は誰じゃ?」


 裏庭にいたのは、ある意味では予想通りで、ある意味では予想外の子だった。

 予想通りなのは背格好。見た目は十歳ぐらい、つまりクロみたいな子供の姿。不思議な民族衣装みたいなものを着てる。深紅のような赤い髪で、瞳も赤。

 予想外なのは、その赤い髪の間から生える小さな角。それに尻尾もある。お尻から垂れ下がった状態で地面につく程度の長さの、ちょっと太めの尻尾。トカゲみたいな尻尾なんて言ったら怒られるかな?

 あとは、まあ、これだね。


「のじゃロリだあああ!」

「……っ!?」

「うお!?」


 私が叫ぶとクロがびくっとして、赤い子もちょっと驚いてた。失礼しました。

 クロは私にちょっと非難がましい目を向けてから、赤い子に向き直った。少しだけ傷つくよ。


「わたし。クロ。かんりにん。おきゃくさま。どうぞ」

「む、む? いきなりじゃな……。見知らぬ者を招き入れぬ方がいいぞ?」


 それとも、と赤い子が続けて。


「貴様もやはりわしの力を欲する者か?」


 そう威圧感すら覚えるほどの目で睨み付けてきた。

 なかなかの威圧感だ。リオちゃんの威圧感を体験していなかったら、正直やばかったと思う。全力で逃げたかもしれない。

 逆に言うと、リオちゃんのやつを体験した今となっては、何の問題もない。かわいいね。

 クロもそれは同じで、きょとんと首を傾げてる。威圧感については特に何も反応を示してなくて、何を言ってるんだろうと不思議に思ってる顔だ。

 赤い子は目をぱちぱちと瞬かせ、そして自嘲気味に笑った。


「わしを知らぬ者などいないと思っておったのじゃが……。まあよい。わしはドラコじゃ。よろしくな」


 ドラコと名乗った赤い子は、そう言って照れくさそうに笑った。ちょっと勝ち気な印象を受ける子だけど、きっとこの子もいい子だね。


「ドラコ。よろしく。つの。しっぽ。かっこいい」

「そ、そうか? そう真正面から褒められると、照れるのう。わしも角と尻尾の手入れは欠かしておらんからな。いいじゃろ?」

「すごくいい」

「うはは! 裏表なく褒められるとなかなか嬉しいのじゃ!」


 なんか、セリフの端々から苦労を感じる気がするんだけど……。気のせいだよね?

 クロは、分からないか。特に気にしてる様子もない。とててとドラコに駆け寄って、その手を取った。


「ドラコ。おきゃくさま。かんげい。どうぞ」

「うむ……。特に邪気はないようじゃな。つまりあの光は魔法の事故か何かか……?」


 光ってことは、やっぱりこの子も光の球とかそういうのを触ってここに来たってことなのかな。ミリアちゃんといいドラコちゃんといい、よく正体不明の光の球になんて触ろうと思えるね。危ないことはしちゃだめだよ。

 おっと、それよりも私も自己紹介だ。クロたちが目の前に来るのを待ってから、私も自己紹介した。


「いらっしゃい。私は小夜。クロの姉です。ようこそ、クロのお家へ」

「うむ。わしはドラコじゃ。貴様は、その……。話しやすそうじゃな」

「あー……」


 うん。クロはちょっと話し方が独特だからね。たまに言葉の意味を考えないといけないこともあるし。何度かちゃんと話せるようにしようとはしたんだけど、結局そのままになってる。


「何かあれば言ってね」


 それだけ言うと、ドラコちゃんは苦笑しながら頷いた。




 キッチンを通って、大広間へ。クロが椅子を引くと、ドラコちゃんは慣れた様子でその席に座った。椅子を引かれることに慣れてるのかな? 貴族だったりする?


「ジュース。ようい」


 そう言い残して、クロがキッチンへと戻っていく。さすがに今回はちゃんとオレンジジュースだけを持ってきてくれる、はず。

 ドラコちゃんはと言えば、側に座るリオちゃんを不思議そうに見つめていた。


「不思議な魔力をしておるな……。貴様がここの家主か?」

「ん……? 違う。家主はクロと小夜。私は、そのお友達。よろしく」

「ふむ……。そうか。わしはドラコじゃ。竜人族であり、人間どもからは終極の魔女と呼ばれているのじゃ」

「そう。私はリオ。よろしく」


 そう言って、リオちゃんは視線を下げて本に戻ってしまった。もうちょっと仲良くしてほしいと思っちゃうけど、リオちゃんは先にクロちゃんと仲良くなってほしいと思ってるのかも。

 ドラコちゃんはそんなリオちゃんの様子に目を丸くしていた。


「驚かない……? わしのことを知らんのか? どんな田舎じゃここは」


 つまり、ドラコちゃんはかなりの有名人ってことかな。貴族どころか王族だったりするかも?

 そんなことを考えてる間にクロがジュースを持ってきた。クロが、というよりおばけちゃんがお盆を持ってる。そのお盆には人数分のジュースだ。


「ジュース。どうぞ」

「うむ。ありが……」


 ドラコちゃんが振り返って、おばけちゃんを見て固まった。口をあんぐりと開けて固まってる。正直、気持ちはとてもよく分かる。いきなり見るとびっくりするよね。


「こやつは……」

「おばけ。ともだち。かわいい」

「う、うむ……。そうか……」


 これは理解を諦めたってやつだね。仕方ない。

 クロがドラコちゃんの隣に座って、私はそのクロの隣に座った。あとはクロにお任せだ。クロのお友達候補だからね。クロが頑張らないと。

 クロを見ると、少しだけ緊張してるのが分かった。がんばれ。すごくがんばれ。


「さて……。クロよ。ここはどこじゃ? なかなかに温暖な気候のようじゃから、クラウセルス地方だと思うのじゃが」

「にほん」

「にほん……? 聞いたことのない地名じゃ……。新興国家か……?」


 さすがに新興国家ではないかな。訂正は……いっか。クロがあわあわとしてるけど、私は何も言わない。お口にチャックだ。


「あの……」

「うむ?」

「いせかい。ちがうせかい。ことなるせかい。わかる?」

「異世界……? その概念は理解できるが……。まさか、ここがそうなのか?」

「そう! わたし。まほう。よんだ。おきゃくさま!」

「魔法……呼んだ……? 転移魔法か!? 小さいのにすごいのじゃ……!」

「えへへ……」


 照れるクロがとてもかわいい。クロが褒められると私もなんだか嬉しくなる。転移魔法がどんな扱いなのかは分からないけど、やっぱりすごい魔法として扱われることが多いみたいだ。

 しかし、とドラコちゃんが首を傾げた。


「クロはわしを知らんようじゃが……。なぜわしを呼んだ?」

「おともだち」

「ふむ……。うん?」


 さすがに今のだと分からないよね。あまりにも説明不足だ。

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