閑話 ミリアのわんにゃん観光
大広間にテレビが設置された。大きいテレビで、お風呂場に繋がるドアがある壁側に取り付けられてる。
私とクロの部屋にもそれぞれ小さいテレビを置いてあるんだけど、みんなで見れるテレビが欲しかったみたい。
そして今、そのテレビはミリアちゃんを虜にしていた。
「わあ……かわいい……!」
ミリアちゃんが見てるのは、動物の番組だ。子犬と子猫の特集だね。それにミリアちゃんが夢中になってる。ミリアちゃんに抱えられてるラキもかわいいと思うんだけどね。
「ラキ! ラキ! かわいいね!」
「わふ!」
うん……。ラキも子犬子猫に夢中みたい。何か違うのかな?
「クロちゃん、日本にはこんなにかわいい子がたくさんいるの?」
そうミリアちゃんに聞かれたクロは、こくこくと何度も頷いた。
「いる。いっぱい。おみせ。ジュース」
「んっと……。動物がいっぱいいるお店でジュースが飲めるの!?」
「そう」
「すごーい!」
ミリアちゃんがすごく目をきらきらさせてる。そういうお店に興味があるみたい。それなら……。
「クロ。ミリアちゃん。近くに子犬と子猫と触れ合えるカフェがあるけど、行ってみる?」
「行きます!」
「ん!」
誰よりも早くミリアちゃんが手を上げて、続いてクロも頷いた。クロもあのお店は大好きだからね。久しぶりにみんなで行くのもいいかな。
クロとミリアちゃんを連れて、街に繰り出した。ちなみにウルたちはお留守番。首輪も何もないのと、子犬子猫たちに会うのにウルは大きすぎると思うから。
二人とも少し服装が独特だ。ミリアちゃんだけじゃなく、クロも。二人ともローブ姿だからね。ミリアちゃんはいつもの青いローブだし、クロも今は黒いローブだ。魔女っぽいから、らしい。
当然ながら周囲の視線を集めてるけど……。どことなく微笑ましいものを見る目だから、きっと大丈夫だと思う。子供のコスプレか何かだと思われてるのかも。
さて。我らがミリアちゃんは。
「わあ……わあ……。すごい……!」
いつもあの家の敷地内だけで遊んでいたからか、外に興味津々だ。アスファルトにも驚いていたし、道を走る車にも驚いてる。
「クロちゃん! この世界の動物はあんなに速く走るんだね……!」
「どうぶつ。ちがう。くるま。のりもの」
「乗り物!? 馬車みたいな……!?」
「ばしゃ。ちがう。どうぶつ、いない。ひと、なか」
「うぅ……。ちょっと分からない……」
「あう……」
二人の視線が私に突き刺さる。説明してほしい、というのがすぐに分かった。ただ、説明と言われても困るんだけど。
「うーん……。馬車の馬がないもの、と思ったらいいよ。それが勝手に走ってる」
「幽霊!?」
「幽霊なら私たちの家にいるよ」
「なるほど、おばけちゃんたちってたくさんいるんだ……!」
「違うよ!?」
いや確かに私の返答が分かりにくかったんだとは思うけど、さすがにそれはちょっと否定しないといけない。おばけとこばけはあの家でしか見ない存在だから。
そうだよね? いや、合ってるよね? 他にいたりしないよね……? 怖くなってくるんだけど。
ともかく。自動車は電気やガソリンを使って自動で動く乗り物、というのを説明してみたけど、ミリアちゃんはよく分からないみたいだった。まあ、今回の行き先には直接関係してないし、別にいいかな?
その後も少し歩いて、到着。子犬子猫がたくさんいる、犬猫喫茶。どっちもいるカフェっていうのは珍しいんじゃないかな。犬も猫もケンカせずに仲良くまったりしてるから、見ていて楽しい場所だ。
外観は普通の民家って感じかな。二階建ての家で、一階がその喫茶店のスペースになってる。家主さんが趣味で解放しているだけだからか、お客さんはあまり多くないけど、知る人ぞ知る名店みたいな雰囲気だ。
「お邪魔しまーす」
「失礼します!」
「ん」
中はちょっとしたリビングだ。たくさんのソファや動物たちが遊ぶ道具などが置かれてる。私たちの他にお客さんはいないみたいで、店主さんの若い女の人がすぐに声をかけてくれた。
「いらっしゃい。小夜ちゃんにクロちゃん、久しぶりね。その子は、お友達?」
「はい。クロのお友達です。動物が大好きらしくて、連れてきました」
「それはそれは……。ゆっくりしていってね」
ジュースを入れてくるわね、と店主さんが奥の部屋に入っていった。それじゃ、私たちは……。
「クロちゃん! 子猫、すごくかわいい!」
「こいぬ。かわいい」
「わあ、ふわふわだあ!」
二人とももう子犬と子猫に夢中になってる。気持ちは分かるけど。とってもかわいいよね。
動物たちも二人のことを気に入ったみたいで、たくさん集まっていってる。構ってほしそうにミリアちゃんの体をよじ登ったり、クロの足に甘えるようにすりすりしたり……。いいなあ。
「あらあら。すごく懐かれてるわね」
そんな様子を眺めていたら店主さんが戻ってきた。持ってるお盆には、ジュースが三つ。
「すみません。ありがとうございます。これ、料金です」
「はい、ありがとう。それにしても、人見知りする子まであんなに懐いて……。すごいわねえ」
特にミリアちゃんがすごい。半分以上の動物がミリアちゃんに集まってる。さすがテイマーな魔女なだけはあるね。
普段からウルやラキが常に一緒にいるし、仲間だと思われてるのかも。
「えへへ、かわいいなあ……」
「かわいい。かわいい」
二人とも、すごく楽しそうで、嬉しそうだ。
うん……。連れてきてよかったね。また一緒に来よう。
余談だけど。顔は隠されてるものの、街を歩く二人のちっちゃい魔女は写真に撮られて、どこぞの掲示板で話題になってたらしい。
盗撮はしないでほしい。クロの魔法で家にはたどり着けないらしいけど、少し不安になっちゃうからね。私ももう少し気をつけるようにしよう。
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