その恋よ
立花 ツカサ
その恋よ
部活終わり
同じ部活の友達とずーっと話していたら、いつも乗っている電車を逃してしまった。
あと、20分。
「意外と長いんだよな、、、」
何かないかとスマホを開くが、特に見たいものもない。
なんとなく、LINEを開く。
やっぱり一番最初に目に入るのはあの子の名前で。無意識のうちにその子の名前を押してトークを開いてしまう。
少し考える。でも、最終的に変わり映えのない「今何してる?」というメッセージを送っていた。
送ってしまった、、、
すぐに、既読がつくわけもなく、その子との今までの会話をスクロールして見てしまう。
一番最初は、その子からの柴犬の可愛い「よろしく」というスタンプ。その次は、「もしかして私と初めてライン交換した?」という質問に「うん」と返すと「やったー一番だ!!」という最高の会話。
それに、たわいもない学校の話。
これだけみたら、いい感じに見える。と、思う。いや、思っていた。
「おっ部活終わりかーお疲れ様。」
5分で返事がきた。早いって、、、
「うん。今電車待ち。」
「なるほど。私は、昼ごはん食べてた。」
すると、半分なくなっているオムライスの写真が送られてきた。
「はらぺこ君に飯テロビーム!!」
「やっやめろーーー」
「www」
「なんだこれwww」
こんなくだらない会話が楽しくて仕方がない。
でも、ふと思い出す。あの子は
彼氏持ちなんだから。
ふざけているのは、俺なのかあの子なのか。
そんなことはどうだっていい。
あの子の彼氏は俺の大切な友達で、最高にかっこいい奴だ。正直俺が敵うような人ではない。まあ、あの子を取ろうとなんて一度も思ったことはないが。
12月
俺は、クリスマスにあの子を誘おうと思っていつものようにくだらないやり取りをはじめていた。すると、その衝撃はいきなり訪れた。
「私さ、彼氏できたんだよねー」
「えっ、、、嘘?」
「嘘なわけないでしょーー!!」
嘘って言ってくれ、、、頼むから
そんなことを願ったって当たり前に叶うわけがない。
「誰?」
「えーっとね」
「洸太」
はっ?、、、嘘だろ
「嘘だー」
「だから本当だって笑」
いや、、、やっぱり嘘って言ってくれ。
この前、あいつ、、、
「
「うん。」
「俺も言うから教えろよー」
という話があった。
「せーので言おうぜ。」
「おう」
「せーの」
「かな」
「かなちゃん」
「あっ、、、」
「あー、、、でもさっきも言った通り付き合う気はないから。安心しろって」
俺がそう言うと、洸太は苦そうな顔をしながら
「ごめん。なんか変な雰囲気にして。でもまあ、俺も気になってるだけだし。」
と言った。
俺たちが一緒にいてこんな空気になることなんて初めてだし。黙るなんて本当になかったから、お互いにどうしていいかわからなかったのだろう。沈黙が数分続いた。
「じゃあ、今日用事あるから。また明日な。」
「おう」
洸太はそそくさと走って行ってしまった。
それは、ライバルになると言っているのと同じではないか。そう思ったことを覚えている。
10月15日のことだった。
「いつから?」
「体育祭の日」
「えっ」
体育祭の日だなんて。9月5日ではないか。あの日の1か月以上前
もう、付き合っていたのか。
「ちなみにどっちから?」
「二人でね。せーので言ったらお互いで笑すごいよね」
「それは、すごい」
「でしょ」
あの子が画面を目の前にしてちょっと照れながら笑っている姿がかなり、かなり鮮明に頭の中に浮かんで苦しくなる。
その後クリスマスどうしようかな?と送られてきたところから、もう俺の記憶はない。
正直、迷った。明日あったら教えてもらったことを俺が言うか、洸太が言い出すまで黙っておこうかと。でも、腹が立ったと言うか苦しくていつもの帰り道、いつものベンチで俺から話した。
「なあ、かなちゃんと付き合ってんだろ。なんであの時言わなかったんだよ。」
顔が見られなくて本当のところはわからないが、多分洸太は驚いた顔をしたのだろう。
「ごめん。本当に鬱陶しいだけだと思うけど、お前が悲しむだろうだとか、、、思った。本当に申し訳ない。本当に」
許すとか許さないとか、奪いたいだとか奪う気ないとかそういうことじゃなくて。ただただ、、、
この前よりも重たい雰囲気なのに、風はカラッとしていて、冷たくて、空は明るくて。こんな今の俺たちの雰囲気とは全く似合わない。
道端にあるベンチに隣同士で座るといつもはすぐに日が沈むのに、今日はいつまで経っても日は沈まないようだ。不思議だ。「地球は自転をやめたのだろうか」なんて変なことを考えても、それを口に出したら笑ってくれる友達はもう隣にはいなくなったのかもしれない。
嘘でもなんでも「おめでとう」と言ったら自分の心は軽くなったのかもしれない。
自分は優しい
自分は友達の幸せを願えるやつ
自分はいい奴だって
でも、そうやって楽になるのは、自分の口が許さないらしい。
ただの息すら吐かせてくれないらしい。
どうにか俺の口が発したのは
「じゃあな」
という小さな声だった。
洸太が何かを言ったとなんとなく感じたが次は耳が車の音しか拾わなかった。
家に帰っても普通だった。泣くこともなく、乱暴することもなく、話さなくなることもなく。
泣き叫ぶのも逃げていると体が言っているようだった。
変な話だが、俺はあの子と洸太の結婚式なら親友代表として挨拶できるくらい仲が良いと自負していたのだ。その大切な友達二人を、なんでも話せる友達を、失った。この辛さを話せる友達を全員失った。
本当なら、あの子に
「洸太と好きな人被っちゃって、、、まあ、付き合ってるらしいんだけど。いやーどうしよ」
と友達として言っていた。洸太に
「いやー今きつい。」
と一言送ってあいつの家に押しかけていた。
どうしたらいいかもわからない。
わからないまま、時間は過ぎた。
わからないが、ほとんど俺と二人の関係は変わらなかった。
自分の適応能力の高さなのか、あの子と洸太がすごいのか。変わらずあの子とも洸太ともたわいもない話で笑って、相談をお互いにして、変わったのはあの子からの洸太の愚痴と惚気を聞かされることぐらいだ。
もう、吹っ切れたとかではなく本当に心から幸せそうだと思えるようになった。だから、この前やっと
「おめでとう」
「おめでとう」
と突然ながら二人に送った。
でも、まだ俺はあの子に未練があるらしい。すぐに返信が来るとまだ脈があるんじゃないかと疑う本能の自分がいる。でもそういう時思う。
俺は、恋をしていた時のあの子との思い出に恋をしているだけなんだと。
そして
その恋よいつまで続くつもりなんだ?
と心の中で笑いながら問う
その恋よ 立花 ツカサ @tatibana_tukasa
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