お姫様になる乗り物は、騎士にカスタマイズしてもらいます。

だるまかろん

お嬢様、冒険に出かける

「ご機嫌いかがですか、お嬢様。」

 彼は彼女に聞いた。

「ごきげんよう。今朝は、あなたがとても素敵で、思わず見惚れてしまいました。とても機嫌が良いですわ。」

 彼女は当然のように答える。

 彼は、白いシャツに紺色のスーツ、青い縞模様しまもようのネクタイを着用している。それは彼女の好みの格好だ。

「ありがとうございます、お嬢様。お嬢様に好感を持っていただけて光栄です。」

 彼は深々と頭を下げた。

「お嬢様の今日の服装も素敵ですね。」

 淡いピンク色のワンピース。袖や襟元には、白いレースがあしらわれ、その細部に花紋様が施されている。

「ありがとう。わたくしも褒めていただけて嬉しいですわ。」

 彼女は上機嫌で、ダージリンティーを一口飲む。紅茶の香りに包まれながら、ティーカップをテーブルの上に置いた。そのテーブルの材料は杉の木だ。長い時間をかけて作られた年輪が、生命の強さを感じさせる。彼女は、そのテーブルの上に硝子ガラスの花瓶を飾り、薔薇を生けて鑑賞している。

「その細やかなレースも、硝子も、薔薇も素敵です。しかし、僕は別のレース……、車のレースに興味があります。」

 彼は自分のネクタイの紐に触れ、少し緩めた。普段あまり着ない服装に、少し疲れた様子だった。

 彼女はその動作を見て少し興奮してしまう。彼女は今まで、そのような動作を見る機会がなかったのだ。

「車の“レース”に惹かれる気持ちは、少し理解に苦しみますわ。」

 彼女が頭を抱えて言うと、彼は苦笑した。

「まあ、車の良さが分からないお嬢様は、僕にとって中古品ですね。」

「まあ、なんて失礼な方なの。中古品ですって?」

 彼女は機嫌が悪くなった。

「お嬢様がお姫様になるのは、まだ早いのです。」

 彼は挑発した。そしてネクタイの紐を外すのだ。

「私が姫になれないのと、車に興味がないのは関係のないことですわ。私はこの国の第六王女ベリー・シック・カスタードです。あなたは、不敬ですよ。」

 彼女は、ハイヒールのつま先をコツコツと鳴らした。

「あなたの名前に、深い闇を感じます。この国には、不信感を抱きました。」

 彼は真っ直ぐと彼女の目を見る。まるで焦る様子もなく悪びれもしない。そのような悪態を見て、彼女は呆れるというよりも、むしろ興奮していた。彼女は変化のない日常に刺激を求めていた。

「第六王女なんて、国の荷物に過ぎない。そんなことは分かっています。だから今日は、庭で自家栽培したブルーベリーの実を収穫しにいきます。飼育している鶏や牛に餌をやり、新鮮な卵や牛乳をいただきます。これを小麦粉と混ぜて焼いてパンケーキを作るのです。今日の朝食です。」

 彼女はハイヒールを見ながら言う。そのハイヒールは、牛革で作られている。

「お嬢様は、第六王女で予算が少ない上、自給自足を強いられているのですか。御気の毒です。」

 彼は彼女を見て同情している様子だ。

「気の毒ではありませんよ。なぜならば、命は尊いものだと実感できるからです。私は、この国が繁栄することを、心より願っているのです。」

 彼女は、彼の目を見て真剣に言う。しかし、彼女の言葉は彼の心には響かない。彼は、“伝説のスポーツカー”について熱く語るのである。

「お嬢様は、“伝説のスポーツカー”を知っていますか。迷宮を攻略すると、スポーツカーのパーツを手に入れることができます。そのスポーツカーは、全ての迷宮を攻略した選ばれし者だけが所有しています。」

 彼はスポーツカーの模型を取り出した。

「お嬢様の国にある迷宮を攻略すると、タイヤとホイールが手に入ります。」

 彼はスポーツカーの模型を分解して、彼女に説明をした。

「お嬢様は、王宮の中に引きこもり、外交もせず、農業だけをしています。そんな第六王女に大金を払う国なんてありません。今すぐ冒険に出かけるべきです。」

 彼は、彼女が冒険に必要な道具を用意している。

「わたくしは、魔力を消耗したくないのです。命の危険もあるし、冒険は嫌ですわ。」

 彼女は嫌だという。彼は、拒否する彼女の喉元に短剣を近づけた。

「今、お嬢様に何をしても、お嬢様を助ける者はいません。僕はあなたの騎士で、護衛を任されています。僕はあなたを簡単に処分できます。」

 彼女は恐怖を感じる。このまま消されてしまうのではないかと疑心暗鬼になった。彼女は冒険に出ることを決意した。

「あなたは、なんて無礼な人なのかしら。」

 彼女は、喉元に向けられた短剣を壁に飛ばした。その短剣は壁に突き刺さった。

「これは、驚きました。お嬢様が僕の短剣を跳ね返すほどの大きな魔力を持っていたとは、思いもよらない発見です。」

 彼は驚いたと言い、拍手喝采である。

「この動きができることを何年も隠していたのはなぜですか。勿体ないですね。これから僕と一緒に冒険し、あなたの実力を見せてください。」

 彼はニヤリと笑う。第六王女は農業をしていた。その理由は、毎日の魔法の訓練で、庭の木々を倒してしまったからだ。庭を元に戻すために、植林をしたり、動物たちと戯れるうちに、農業が楽しくなったのだ。

「壊すことや、戦うことは好き。でも、それだけでは意味がないわ。そのあと和解して、また再生することも考えて倒すのです。わたくしの考えに合わないような戦いはしません。それで良ければ、迷宮に行きます。」

 彼は何も言わず、彼女の前に跪いて応えた。

「……そうですね。お嬢様の考え方は、素晴らしいと思います。全力で御守りします。早速、現地に向かいましょう。車庫に専用車を停めてあります。」

 彼は眼鏡の縁に触れて、眼鏡をキラッと反射させた。彼の表情も変わったように見える。

「あら、仕事が早いですね。えっ、もう出発するのですか。」

 彼女は驚き、慌てた様子で紅茶を一気に飲み干した。

「ええ、もちろん。」

 彼はニヤリと笑った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お姫様になる乗り物は、騎士にカスタマイズしてもらいます。 だるまかろん @darumatyoko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ