25店目「神様との晩餐 その1」

三日後の夕方16時33分、魔獣たちがウメーディのすぐ傍まで来ているという連絡があった。

どうやら道中で魔獣たちを加えながら侵攻しているようで、その数は今や25,387匹(チャットGOTさん調べ)。

数字だけ見ると絶望的だ。

地震の前触れのような細かい揺れが、足元にはっきりと感じられる。


魔獣たちはその行程で近隣の町や村を侵略しようとしたが、すでにもぬけの殻。

餌となるような物資すらも無かったようだ。


ウメーディでも近隣のエリアから冒険者をつのり、ウメーディを守護する現在冒険者の数は1,200人まで増えたという。

Aランクパーティも何組か加勢に来てくれたそうなので、状況は以前よりは有利になっている。


僕たちのパーティを併せた別動隊は全部で4パーティ。


Aランクパーティ【断罪の鎌】

Bランクパーティ【エンジェルボイス】

Bランクパーティ【ビーストウォリアーズ】

Cランクパーティ【虎の牙】


地下道は全部で2か所、それぞれが壁の外側に続いている。

【断罪の鎌】と【エンジェルボイス】が東側の通路を、【ビーストウォリアーズ】と僕たち【虎の牙】は西側の通路から指揮官を目指す。


まずは僕たち3パーティが指揮官までの道を切り開き、【断罪の鎌】が指揮官にとどめを刺すという作戦だ。

通路へ突入の合図は魔獣たちがウメーディに到着後。

魔導士たちが放った魔法の爆発音が合図となる。


僕たちと行動を共にする【ビーストウォリアーズ】は獣人だけの五人構成。

獅子顔の重戦士ボックス、ウサギのような長い耳が特徴の狩人キャメル、精悍な顔つきの狼系獣人である武闘家イワン、猫耳が可愛らしい女性剣士リップス、長い尻尾が特徴の槍術士ライアン。


さすがB級パーティ、それぞれのメンバーの風格が他の冒険者と段違いだ。


ゴゴゴゴッ!

大きな爆発音と地響きが突然起こった。

その振動で、僕は前のめりにバランスを崩す。


「始まったようじゃな。では【虎の牙】の面々、いざ戦場に向かわん」


【ビーストウォリアーズ】リーダーのボックスが、通路を指さした。


僕たちは顔を見合わせて頷き、通路へと走り出した。


通路は薄暗くかび臭い。

点灯したランプが壁に等間隔で掛かっており、最低限の明かりは確保されている。

通路自体は直線の一本道。使用頻度はほとんどない割には、通路や壁が整理されている印象だ。

ダンジョンのように罠が仕掛けられていたり、魔獣が出現するということも無さそうだ。

これなら到着するまでは、危険なことも無さそうだ。


ズズーン!ゴゴゴゴ。


激しい音と共に天井からパラパラと埃が舞い落ちる。

よほど強い魔法を使用しているのだろう。

この攻撃が続く限り、魔獣たちが街に侵入するのは困難だろう。


「さすがギルド長殿」

「えっ?」


ボックスがオレンジ色の眉を上げながら呟く。


「あの攻撃はおそらくギルド長じゃろう。彼の斬撃は轟音と共に爆発が起こるのじゃ」


斬撃?魔法じゃなく?


「何らかのスキルを使っているのじゃろう。あの威力の攻撃を撃てる者はギルド長の他に鷲は知らん」


やはりギルド長は規格外だったらしい。

本当に何者なんだろう?


ビービービー

突然僕のスマートウォッチのアラームが鳴り響く。


どうやら僕の索敵に魔獣が引っかかったようだ。

前方に23体の魔獣の反応。コボルトとオークたちが前方から向かってきている。


ボックスも敵の存在に気づいたのだろう。

直ちにパーティメンバーに指示を送る。


「ミツル、アイツ。ここは私に任せてくれ。私の実力も他の奴らに見せなくてはな」


そう言うとリッチのヘブンズは詠唱を始めた。

ただ、妙に寒気がする。

その時、僕の直感が叫んだ「この魔法は危険だ」

「ボックス下がってくれ!」

「貴様ら全員下がるのじゃ!」


アインツもボックスもそのヤバさを感じたらしい。

ボックスは意気揚々と敵に向かっていくメンバーを制止した。


「ベノムアシドーシス!」


詠唱を終えたヘブンズが敵の集団目がけて魔法を発射した。

紫色の液体の塊が分裂を繰り返しながら、魔獣たちに向かっていく。


ジュゥゥジュゥゥ


「ギャァァウ…!」


高熱で焼かれるような音と、魔獣たちの悲鳴が通路に反響する。

ただそれは一瞬だけ。すぐに通路は静寂を取り戻した。


僕たちが魔獣がいた地点に到着すると、そこにあったのは溶解されて骨になった魔獣たちの死骸。


ジュゥゥと音を立てながら、骨まで溶かしている。

23匹いた魔獣たちは一匹も残らず白骨化していた。

あまりの威力に、百戦錬磨のボックスも声が出ないようだ。


「さあ先へと進みましょう」


リッチは通路の出口へ向かって走り始めた。

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