24店目「土の精霊の料理 後編」
「おい、ここだ」
ノーマットに連れられて路地を歩くこと十五分。
僕たちは小さな石造のお店に到着した。
煉瓦造りの建物が中心のウメーディではそれ以外の建物は珍しいものの、この辺りの建物のほとんどが石造である。
ここはどこかの集落だろうか?
そう言えば通りを歩く人々は小柄だが、男女とも逞しい体をしていたように思う。
もしかするとドワーフの集落なのか?僕が入っても大丈夫なのだろうか?
「おい、何をしてる?店に入るぞ」
ノーマットは僕の腕を掴み、簡素な扉を押して中へと入った。
店の中は意外なほど明るく、ロウソクの炎がそれぞれの机の上で揺らめいている、
お店の中はカウンターにテーブル席が四台。
広くもないが、狭くもないといったところだ。
テーブル席とカウンター席に、それぞれドワーフらしい風貌の男性客が談笑しながらエールを飲んでいる。
天井は高く、むき出しの梁に沿って提灯のようなものが吊り下がってる。
この提灯から火が灯り、店を明るく照らしているようだ。
「ここに座るぞ」
ノーマットはカウンター席に腰を下ろす。
僕も同じように席についた。
「マスター、いつものやつを二つだ。それにエールもな」
ノーマットはこの店の常連のようだ。注文の仕方が実にスムーズである。
「エールでいいだろ?」
「ああ、問題無い」
(後から確認するなら先に聞いてほしい)
僕は心の中でつぶやいた。
「この店は俺のお気に入りなんだ。大地の香りがする料理ばかり出してきやがる」
「大地の香り?」
「なんだ、そんなことも知らねぇのか?土の精霊の祝福で満たされた料理のことだ。まぁいい、とにかく食ってみな」
トン。
溢れんばかりのエールを入れたジョッキを僕らの前に置く。
その腕は料理屋の店主とは思えないほど太く、ところどころ傷跡が残っている。
ドン。
続いて、香ばしい香りがする四角の料理皿を置いた。
皿の上には、甘辛く味付けされているであろう鶏の足(もみじ)が盛られている。
「へっ、驚いただろ?これがこの店の名物メニューだ」
確かに初めて見る物には、この見た目はグロテスクだろう。
でも、僕は日本のベトナム料理店や飲茶専門店でこの手の料理はよく食べている。
僕にとっては、「美味そう」以外の驚きはない。
僕は手づかみでもみじを掴み、そのまま豪快にかじりつく。
美味い!
鶏のもみじと比べ、より濃厚な味わいだ。
軽く素揚げしているようで、さっくりとした歯ごたえが香ばしい。
味付けは中華風の味付けにどこか似ており、絡めたタレが淡白な風味の軟骨に独特の味わいを付け加えているようだ。
ターメリックのような香りの香辛料も味の複雑さを増し、噛めば噛むほどその独特な味わいの虜になる。
「おめぇ、いい食べっぷりじゃねぇか」
他のドワーフの客から声があがる。
どうやら僕がどう食べるのかを見ていたらしい。
「人族のやつは、見た目でこんなうめぇもんを避けやがる」
「ああ、やつらは食い物にもランクをつけてやがるのさ」
「てっいうかおめえは人族にも見えんがな。がはは」
ドワーフたちがエールを持ちながら、僕たちの方に近づいてくる。
「こんな美味いものを食べないなんてどうかしてるよ」
僕はエールを頭上にあげると、他のドワーフたちも同じようにエールを持ち上げた。
「ヘルディオス(栄光を我らに)」
僕たちはカウンター席からドワーフたちの食事をしていたテーブル席に移動すると、再度エールを注文した。
その後、ダンジョンピルバッグの煮物、ワームスネークのステーキ、ダークマッシュルームとワイルドボアベーコンのサラダなど食べたこともない料理が並んだ。
「なあ、トラ顔紳士。おめぇ、スタンピードを指揮する奴と戦うんだろ?俺らに手伝わせてくれねぇか?」
ノーマットとドワーフたちは一斉に僕の顔を見た。
「えっ、どういうことだ?」
「俺たちは戦う力はねぇが、鍛冶をすることはできる。こいつらみんな鍛冶師どもだ。お前らの装備を俺らの手で整備してやるのさ」
お前らというのは僕たちのパーティのことだろうか?
「俺らが整備すれば、お前らの武器や防具を一ランクはアップすることが出来る。生存率がより高くなるっていうわけだ」
「俺らも生活を奪われると困ってしまうのさ」
赤い帽子を被ったドワーフも答える。彼も丸太のような太い腕を胸の前で組んだ。
「それはありがたい提案だが、いいのか?僕たちには返せるものがないぞ?」
「ふん、やつらの素材を一つだけでも持ち帰ってくれれば十分だ。それだけで十分見合う報酬になるだろう」
ノーマットと共に他のドワーフたちも頷く。
「了解した。明日が作戦決行日だが、間に合うのか?」
「ああ、俺らは腐っても鍛冶専門のドワーフだ。やってやれないことはない」
ノーマットは親指を立てて合図をする。
「では、俺らは準備があるからこれで失礼しよう。仲間に出会えたらこの店に来るように伝えてくれ」
赤帽のドワーフと他のドワーフたちは立ち上がって、マスターの方へ向かって行った。
ノーマットも僕の肩を叩き、そのまま入り口に向かったのだった。
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