23店目「リニューアルオープンしたギルドの酒場 後編」

「さてと、本題だ」


ギルド長は僕たちに席に座り、話を切り出した。

いつの間にか右手にエールのジョッキを手にしている。


「実は先ほどのザガンから提案があってな。どうやらお前たちや他のパーティーを先に向かわせて、奴らのパーティ【断罪の鎌】は時間差で向かわせろとのことだ」

「なっ!そんなことが許されるのか!」


アインツが即座に反応する。


「どうやら奴らにとって、魔獣たちの襲撃は名声を上げるためのチャンスなんだろう。ランクの低いパーティが指揮官への道を開き、美味しいところを頂こうって算段だ」

「ギルド長はそれを認めたのか?!」

「ああ、その方がマシだと判断した。奴らは確かに強い。だが、それ以上に名声を気にするのさ。奴らにとっての獲物を奪おうとする奴は、例え味方でも攻撃をしかけるだろう」


なんてイカれた奴らなんだ。

話を聞くだけで胸糞が悪い。


「なぁおっさん、じゃ何で『断罪の鎌』の奴らを招集したんだ?」


セリアは質問した後に、エールを飲み干す。


「……王都からの推薦だ。奴らに箔をつけさせたいんじゃねぇか。奴ら王都では人気のあるパーティらしいからな」


ギルド長もエールを飲み干し、給仕にエールのお替りを注文する。


「それでだ。まずお前ら3パーティが先行して指揮官を守る部隊に当たる。その最中に『断罪の鎌』の奴らが指揮官を狙うって算段だ。まっ、そううまくいくとは思えんがな」

「なぁ、指揮官ってそんなに強いのか?」


アインツが真剣な表情でギルド長に質問する。心なしか手が震えているようだ。


「ああ、俺の斥候からの情報だと、どうやらキマイラらしい」

「キマイラだと!!」


アインツのあげた声で、他の客の視線が僕たちに集中する。

小声のザワザワとした声が、あちこちで起こり始めた。


「ああ、おそらく間違いないだろう。獅子と山羊の頭が確認出来たそうだ」


「キマイラは獅子の頭と山羊の頭、ドラゴンの頭と胴体、蛇の尾を持つ驚異度A~Sの魔獣です。口から吐かれる炎には要注意です」


チャットGOTさんの声が直接頭に響く。

どうやらかなり危険な魔獣らしい。確かにCランクの僕たちが立ち向かえる相手ではないだろう。


「キマイラ相手に俺たちだけで立ち向かえるのか?もう少し戦力の補強は出来ないのか?」

「キマイラも怖えが、数千頭の魔獣を相手にする防衛ラインもギリギリでね。お前らにやってもらうしかねぇんだ。ミツルもいるしな」


えっ、僕?


「はっきり言って『断罪の鎌』のスタンドプレーなんて気にしちゃいねぇんだ。ミツルさえいればなんとかなるんだよ」

「たしかにミツルがいれば大丈夫よね」


ずっと黙々と飲んでいたミトラが乗っかってくる。

それは過大評価すぎじゃない?僕はただの食レポブロガーだよ?


「とまあそんな感じだ。お前らが苦戦するようだったら、俺が代わりにやってやんよ」

「おお!かつてのS級冒険者、【正確無比の解体士シンジ】再びですね。


何そのかっこ悪い二つ名は……。

っていうかあんた一体何してるの?


「だが、そうならないことを祈っている。俺が離れると街が危険にさらされるからなぁ」


ギルド長はそう言うと、手持ちのエールをぐいっと飲み干した。


「じゃあそう言うことでよろしく頼まぁ。お前たちには期待している」


そう言うと彼は、殻になったエールのジョッキをタンッと机に置き、そのまま厨房に向かって歩いて行った。


「なぁ、ギルド長って強いのか?」


僕は恐る恐るアインツに聞いた。


「ミツル知らないのか?ギルド長はかつて世界最強のパーティと呼ばれた『西の猛牛』の副リーダーを務めた男だ。何があったのかは知らんが、突然パーティを脱退してこの街に冒険者ギルドを設立したんだ」


西の猛牛?関西の野球チームっぽいな。

確かにあの雰囲気と剣の扱い方は、ただものではないとは思っていたが。


「俺たちも作戦会議を続けるぞ。だがその前に喉を潤さないとな」


アインツはそう言うと、全員分のエールを注文する。

僕たちは再度乾杯をし、閉店になるまでずっと戦略を煮詰め続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る