22店目「迷宮レストラン 前編」

一夜明けて僕らは再度迷宮レストランを目指して、ダンジョンに挑戦することになった。

僕がロストワールドにいた期間は、この世界では三日ほどだという。

アインツ達は落とし穴に落ちた僕を探すべく、ダンジョンの10階層へと進んでいたようだ。

どうやら迷宮レストランらしき建物の目撃例は、地下12階層以降が多いとのことだ。

実際に行った者からの情報はない。

行ったと思われる者は、すべて行方不明となっているらしい。


カシムの話では、迷宮レストランの店主と思われる者はロストワールドからの離脱者らしい。

迷宮レストランもロストワールドと何か関係があるのかもしれない。


僕は新しいアプリをいくつかダウンロードし、ダンジョン探索に備えることにした。

ロストワールドに行っている間にポイントが貯まっており、アプリをダウンロードできるようになったのだ。


今回の一押しアプリは『メタモルフォーゼ』。

なんとスマホの形を変化させられるアプリらしい。

このアプリを使えば、スマホを剣に変えたり、銃に変えたり、スマートウオッチに変えたりすることが出来るのだ。

まさに、物理の法則を無視した画期的なアプリなんだ。


そろそろ集合の時間だ。

僕は『着せ替えアプリ』を起動して、服装をチェンジする。

今回のポイントは、秋のビジカジ。


ネイビーのテーラードジャケットに、ギンガムチェックシャツ。

ベージュのスリムチノパンに、黒のローファーを合わせた。

今回、スマホはスマートウォッチに変形。

全体的にカジュアル寄りのコーディネートとした。


「ミツル準備は出来たか?」


カシムがドアを開けて僕の部屋に入ってきた。

この世界に戻って来たばかりのカシムは、住む場所が決まるまでの間は僕と同じ『癒しの風亭』に宿泊するとのことだ。


今日からカシムも僕たちのパーティの一員。

迷宮レストランの件が解決すれば、ソロで他の魔族を探しに行くとのことだ。


「ああ、それじゃギルドに向かおう」



ギルドに到着すると、すでに全員が揃っていた。

僕がパーティから離れた三日間で、メンバーたちの雰囲気はどこか違う。

よく見ると、メンバーの武器や防具が、新しく新調されているようだ。


僕の視線に気づいたミトラは、僕にニコッと笑って見せる。


「ミツル、気づいた?みんなの装備が変わっているでしょ?ミツルがいなかった間、大変だったのよ」

「何かあったのか?」

「ミツルを探して、一気に下層へ向かったでしょ?敵が急に強くなって、必死に戦ったのよ。武器や防具が壊され、何度も死にそうになったわ」


ミトラは両手で天を仰ぐ。


「でもその分報酬が大きかったからね。おかげで新しい装備が買えたわ」


ミトラが僕の方に向き直り、ガッツポーズをして見せる。

この明るさがミトラのチャームポイントだ。

笑顔の裏でかなり辛い目にもあったのだろう。


「無駄口はここまでだ。早速ダンジョンに向かうぞ」


アインツはダンジョンの方を指さして言い、ミトラは僕にペロっと舌を見せる。

そんなミトラの頭にセリナがポンと手を乗せた。


「もぅ、セリナも子供扱いして!」


ほっぺを膨らませるミトラを尻目に、僕らは街外れのダンジョンに向かって出発した。





ダンジョンの一階層に到着すると、目の前には大きな転移の扉が立っている。

扉といってもドアはなく、大型のスタンドミラーのように見える。


「十階層から行くぞ」


転移の扉は一人でもパーティメンバーが転移の扉のスポットに到達すると、その情報は書き換えられ全員に波及する。

そのため、その階に行ったことがない僕でも、アインズ達と一緒にいると同じように10階層へと転移することができるのだ。


僕たちは転移の扉に同時にかざすと、扉が淡い光を放出し始めた。

眩暈のように僕の視界が回り、景色が不明瞭になっていく。

そして次の瞬間、僕達の体はスタンドミラーのような扉に吸い込まれてしまった。


気が付くと、僕たちは鍾乳洞のような空間に立っていた。

僕らの前にはスタンドミラーのような転移の扉。

この鏡のような扉を通って来たらしい。

一体仕組みはどうなっているんだろう?


僕らのすぐ近くには、下へと続く階段が設置されている。

この階段を降りればいよいよ11階層だ。

アインツたちもまだ11階層には行っていないらしい。

前回の冒険時には、この階段の前の転移扉を利用して、一階へと戻ったとのこと。


迷宮レストランの発見情報は11階層以降だという。

もちろん、十一階層以降は出現する敵も強くなる。

階段を前に緊張感が走る。

カシムの方を見ると、カシムは特に驚異には感じていないようだ。

早く階段を降りたくてウズウズしているようにも見える。


「アインツ、行こう」


僕はアインツの肩をたたくと、アインツも笑顔を返す。


「ああ、これからがダンジョン探索の本番だ。みんな行くぞ」


アインツはそう言うと、真っ先に階段を降り始めた。




一体、どのくらい階段を降りたのだろうか。

降りても降りても一向に次の階層が見えてこないのだ。

階段を降り始めてもう三十分は経っているだろう。

階下は深い闇に覆われ、先が見えない。


「アインツ、今までの階層はここまで深かったのか?」

「いや、今まではすぐに次の階層が見えてきた。この階は異常だ。こんな話は他の冒険者からも聞いたことがない」


アインツはお手上げという風に両手の平を上げ、肩をすくめて見せる。

ミトラもセリナも歩き疲れたというジェスチャー。

ただ、今から戻るのも一苦労だ。

僕らは階段を降り続けるしかないのだ。


さらに降り続けること三十分。

階段のずっと下に明かりのようなものが見えた。


「きっと、あれが十一階層のフロアよ」


先ほどまで愚痴を言い続けていたミトラの表情が明るくなる。


「いえ、何かがおかしいわ。フロアの明かりにしては局所的なのよ」


リネアが注意喚起するも、ミトラはもうすでに聞いていない。

ミトラの階段を降りるペースが上がり、僕も彼女を一人にさせまいとペースを上げた。

他のメンバーは警戒しているのか、降りるペースは変わらない。

僕とミトラが先行している形となる。


「ミトラ、単独で行くと危ないぞ」


僕は走るように降りるミトラの後を追う。

階下の光りは段々と鮮明となり、それに合わせてミトラのぺースも上がる。


「おい、ミトラ!ミトラ!」


ミトラは一足先に階段を降り終え、進行方向をじっと見たまま動かない。


「ミトラどうしたんだ?」


僕も階段を降り終えて、ミトラが見ている方に目を向けた。

この階層のフロア自体は薄暗い。

しかし、紫色の光が辺り一帯を明るく照らしている。

その光はフロア内に建っている建物から発しているようだ。


「何でこんなところに建物が?」


注意深く見ると、それは建物というより何かのお店のようだ。


「ミツル、あそこを見て」


ミトラが呼び刺す方を見ると、看板に書かれた文字が見える。


「迷宮レストラン」


看板には、はっきりとそう書かれていた。

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