20店目「珍味!コカトリスの軟骨 中編」
カシムと戦った後、僕らは一旦カシムの家に戻った。
カシムと戦った後のボロボロの僕のままじゃ、ペリュトンには勝てないと判断したからだ。
それにカシムと戦うことで、僕は現在の自分の実力を痛感した。
僕は少し驕っていたのかもしれない。
今まで連戦連勝で持ち上げられてきたが、僕が今まで勝ててたのはスマホやマジックアイテムがあったからだ。
今回もスーツやトラ顔マスクに助けられた。
生身の僕であれば、カシムに触れることも出来ないまま敗れていただろう。
また、武器も欲しい。
スマホが圏外の今の僕には武器がない。
カシムに借りた練習用の剣では、ペリュトン相手に何の役にも立たないだろう。
この世界を出るためにはこのままじゃだめだ。
僕自身、もっと強くならなくてはならない。
また、迷宮レストランについての情報も聞けていない。
せっかく情報を持っているであろうカシムに出会ったのだ。
この世界を出る前に情報を集めておいた方がいいだろう。
僕がリビングの椅子に座ると、カシムがお茶を出してくれる。
「ミツル、君はマジックアイテムをいくつ持っているんだ?]
お茶を飲む僕に、カシムが話を切り出す。
「四つ、いや五つだ」
僕は少し考えてから、返答をする。
「やはり……。あの強さは一つだけじゃないと感じていた」
「ああ、マジックアイテムがないと、カシムには勝てなかっただろう」
「しかし、マジックアイテムをどこで入手したのだ?一つでも売れば、一生金には困らないだろうに。いや、言えるわけはないな」
カシムは一口で、自分のお茶を飲み干した。
「ああ、ある人から渡されたとしか」
僕もお茶に口をつける。
「なあ、もしミツルさえよければ、俺から剣を学んでみないか?たとえ強い力を持っていたとしてもあのままじゃ宝の持ち腐れだ」
「確かにな。だけどいいのか?」
「ミツルさえ良ければな。ミツルが強くなればこの世界から抜け出る可能性が増えるだろ?俺は奴みたいに、そろそろこの世界から出たいのさ」
「奴って?」
「この世界を出て、迷宮レストランとかいう店を作るって言ってた魔族のことさ」
迷宮レストランの店主は魔族!?
「カシム、その魔族のことを教えてくれないか?僕は迷宮レストランを探しに来たんだ」
「ほう、ということは奴は成功したんだな」
「そのレストランが問題なんだ。店に行ったはずの人たちが全員行方不明になっている」
「……それは興味深いな」
僕らはお互いの持つ情報を交換し合った。
迷宮レストランの店主と思われる人物は、ヘブンズという名のリッチらしい。
元々はカシムと同じ魔族だったが、死してリッチとして復活したようだ。
カシムとこの世界で知り合った際にはすでにリッチだったとのことだ。
ヘブンズはこの世界でレストランを開き、様々な料理を格安で振る舞っていた。
カシムとも同種族ということもあり、馬が合ったらしい。
「奴はダンジョン探索中の冒険者に、自分の料理を食べて英気を養ってもらいたいという夢があった。この世界は奴にとっては物足りなかったのさ」
「それでこの世界を出た」
「そうだ、奴は様々な闇魔法の使い手だ。ただ、それでもペリュトンには敵わない。どのようにしたかは分からないが、奴は戦わずにこの世界を出る扉を渡ったようだ」
戦わずにも出られるということか。
そんな方法がもしあるなら利用してみたい。
「では、早速剣の特訓をしようか。ミツル、先に裏の広場に出ておいてくれ」
カシムの家の裏手にはまだ何も整備がされていない空き地がある。
カシムはよくこの空き地で剣の練習をしているとのことだ。
十分後、カシムは数種類の剣を持って空き地に現れた。
そのうちの一本を僕に向かって放り投げる。
「ミツル、剣には様々な種類がある。形状による違いや用途による違いなどで、数十種類に分類される。どのタイプの剣が合うかどうかは、個人の能力や嗜好によって変わってくるんだ」
カシムに渡された剣は片手で操作できるほどの重さの両刃剣、刀身の長さは100㎝ほどだろうか。比較的扱いやすそうな剣だ。
「まずは一番基本の剣から慣れるといい。この手の剣はロングソードのように防御ごと斬り割くような攻撃力はない。初手で相手を倒そうとせず、盾と併用させながら相手の隙を突く戦い方が向いている」
カシムの教え方は実に適格だ。武器の特徴や扱い方を丁寧に説明した後で、その武器を使った訓練を行う。
その上で、その場その場に応じた力の込め方、剣の振り方、攻撃の受け方、戦術の立て方などもしっかりと伝えてくれるのだ。
ある程度の訓練が終われば、別の剣も同様の方法で行い、終わればまた別の剣の訓練を行う。
どうやらカシムは訓練をしながら、僕に合う剣も探してくれているようだ。
十種類の剣の訓練を終える頃には、すでに辺りは真っ暗になっていた。
「ミツル、今日の訓練はここまでにしよう。今から飯に行くぞ」
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