14店目「コロボックルの森林グルメ 前編」
一夜明けて、僕たちはギルド長の依頼を達成するために、フラワリアの森に向けて出発する。
もちろん僕も何もしなかった訳ではない。
既存のアプリを強化し、新しいアプリもダウンロードした。
本日の服装は七分丈の夏用グレーオックスシャツに、黒のスキニーパンツ。
靴は黒のキャンパススニーカーと、ビジカジよりはややカジュアルなファッション。
待ち合わせ場所よりやや早めに出た僕はミトラと共に、集合場所である冒険者ギルド近くの武器屋に立ち寄った。
「おお、いらっしゃい、弓は出来てるよ」
僕たちの顔をみると、店主は店の奥から高級感のある弓を取り出した。
さらに弓だけではなく、ぎっしり矢が詰まったアンティーク感のある矢筒まで渡す。
「えっ、矢まで頼んでないわよ?」
「こいつはサービスだ。どうせなら矢も良いものの方がいいだろ?」
ノーマットはニヤリと笑って見せる。
「ノーマット、ありがとう。お代は必ず冒険から帰ったら持ってくるわね」
「ああ、頼むわ。それとそっちのあんちゃんの防具も見せてくれよな」
僕たちは再度ノーマットに礼を言い、店を離れて待ち合わせ場所へと向かった。
「なんか私凄いものを買ったみたいね。早く使いたいわ」
ミトラは得意げに矢を射る格好をする。
一体、前の弓とどのくらいの差があるのだろう。確かに気になるところだ。
僕らが待ち合わせ場所に到着すると、すでにミトラとアインツは出発の準備をしていた。
「ミトラ、武器は用意できたのか?旦那はいつも変わらないな。」
そういうセリナも背中に新しい剣を背負っている。
アインツも盾と鎧を新調したようだ。
「さぁ、行こう」
アインツの掛け声で僕たちは、サウスウエストにあるフラワリアの森へ向かって出発した。
フラワリアの森まで徒歩で約4時間くらいだ。
森は広大で魔獣たちが多く生息しているらしい。
チャットGOTの情報によるとグリズリーホーンベアは、森の奥地を好んで生息するとのこと。
恐らく森を探索中に、グリズリーホーンベア以外の魔獣にも襲われるだろう。
本来フラワリアの森の探索依頼は、Eランクよりも上のランクに設定されている。
フラワリアの森に向かう間僕たちは、緊張感のためか言葉数は少ない。
全員この依頼の難しさと森の怖さを、肌で感じているのだろう。
幸いにもフラワリアの森までは魔獣とは遭遇はしなかった。
僕たちは森の入り口で足を止めた。
「みんな準備はいいか?」
アインツが僕たちに問いかけに僕たちは無言で頷く。
「本日の探索は夕方までにしよう。夜間は森の魔獣たちが活性化するようだしな」
「ああ、それでいこう」
僕たちは顔を見合わせ頷いた後、森の中へと足を踏み入れた。
森の中は木立が密集しており、正午にも関わらず日が差し込んで来ない。
辺り一帯は不気味なくらい静かで、時折鳥や虫の鳴き声が聞こえてくる。
地面にはむき出しの根が這っており、気をつけないと足をとられそうだ。
湿った地面を歩くと、ギュっギュッとゴムホースを踏んだような音がする。
「あっ、何かいる」
僕がスマホで索敵するより早く、ミトラは何かを感じ取ったようだ。
これも狩人のスキルかもしれない。
僕らは即座に戦闘態勢をとる。
「あの茂みの向こう、二匹?三匹?」
僕らから少し離れた位置でミトラも弓を構える。
僕はチャットGOTを起動し、茂みの向こうにいる魔獣を調べた。
「キラーアント3体だ。どうやら奴らは僕らの姿に気づいていない」
僕は小声でみんなに敵の情報を伝える。
すると次の瞬間、僕の頭上を三本の矢が過ぎ去り、茂みの方に向かって飛んで行ったのだ。
ドドドッ!
「ギ、ギィィ……」
小さいうめき声と、何かが地面に落ちる音が茂みの向こうから聞こえた。
僕らは急いで茂みの向こうへと駆け寄る。
すると、頭を失った3体のキメラアントが地面に倒れていた。
その傍らに3つの頭が転がり、いずれにも矢が突き刺さっていた。
ミトラだ。
ミトラが一瞬で放った矢が、キメラアントの頭を正確に打ち抜いたのだ。
信じられない……。
前回の冒険時のミトラの射撃とは雲泥の差だ。
ここまで強力になるとは予想外だ。
「さっ、素材を改修しましょう」
僕らは倒れているキメラアントから矢を回収し、キメラアントの体をそのまま僕のカバンへとほりこんだ。
大きなキメラアントの体が僕のカバンに入るときに縮小されながら、スポッとカバンの中に収納されていく。
どんな大きな獲物だとしても、このカバンを使えば簡単に収納できるのだ。
みんなが言うには、このカバンは収納力はマジックアイテムすら大きく越えている。
まさに国宝級のレアアイテムらしいのだ。
素材を回収した僕たちは、森の奥地に向かって再び歩き始めた。
歩き始めて十分も立たないうちに、スマホの索敵機能に敵影が浮かび上がる。
どうやらミトラも同じく気づいたようだ。
今度は単独で活動している魔獣のようだ。
ただ、様子がおかしい。
一つの大きな反応の他に小さな二つの反応。
この二つの反応はどうやら魔獣ではないらしい。
魔獣とこの二つの反応はその場にとどまりながら、頻回にその位置を入れ替えているようだ。
まさか、魔獣に襲われている?
すぐに僕の疑いが確信に変わる。
2つの反応のうち一つが弱々しくなり、動きを止めてしまったのだ。
僕はスマホの画面上で動きを止めた反応をクリックする。
すると、その反応の正体がチャットGOTによって解析された。
「アイヌン二十六歳、コロボックル族の男性です。けがのため意識不明」
やはり、襲われているようだ。助けよう!
僕は仲間に状況を話し、手助けを求める。
「ミツルの索敵能力は異常だな。襲われているやつのことまで分かるのか。それで敵はどんな奴だ?」
確かにそうだ。助けることばかり気にして相手のことを無視していた。
僕は改めてでかい反応をクリックする。
「ワイルドボア LV12。驚異度E。戦闘のためか左目を負傷しています。」
僕がチャットGOTから得た情報を彼らに伝えても、みんなは特にひるんだ様子は見えない。
「LV12のワイルドボアか、やれないことはないな」
「ミトラが見せてくれたんだ、今度は俺たちじゃねぇ?」
アインツとセリナも彼らを助けることに同意をしてくれた。
距離は約百メートルほど、急げば間に合うだろう。
僕たちは、木々を抜け彼らの元へ向かった。
到着した僕らの目には、二人のコロボックルの姿が映る。
一人は地面に倒れており、もう一人は彼を守ろうと両手で短剣を構えている。
その向かい側には今にも飛び掛からんとするワイルドボアが、右の前脚で地面をこすり、リズムを取っているように見える。
「俺に任せてくれ!」
そう言うとアインツはワイルドボアに向かって飛び込み、『鉄壁防御』のスキルを使用した。
『鉄壁防御』は自身の防御力を大幅アップさせると同時に、相手のヘイトをその身に受けるスキルだ。
ワイルドボアはコロボックルたちから、アインツに視線を移し、そのまま猛スピードで突っ込んできた。
アインツは盾をしっかりと構え、腰を低く落とす。
彼はワイルドボアの突進を正面から受けるつもりだ。
ガッシャーン。
鈍い金属の衝突音が辺り一帯に響く。
ワイルドボアとアインツは真正面から衝突したのだ。
しかし、吹き飛ばされることなく受けきったアインツ。
彼も前回よりもレベルアップしているようだ。
その一瞬に距離をつめたセリナは、ワイルドボアの頭上より高く飛び上がたまま、背中から大剣を両手で抜いた。
「いやあぁぁ!」
雄たけびをあげながら、落下のスピードを利用してワイルドベアに大剣を振るうセリナ。
彼女が着地すると同時にワイルドボアの首は胴体から離れ、宙を舞ったのだ。
ズゥゥゥン……
大量の血しぶきをあげながら地面に倒れるワイルドベアは、そのままピクリとも動かなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます